傾国のひとりごと肆 (ページ31)

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　　　伍ページ31

何か、揺れている気がする。

必死な顔の壬氏さまが見える気がする。

(だめですよ、壬氏さま、そんなに近づくと服に血が)

言ってみるが声はでない。

夢なのだと悟った。

(きらきらしくない壬氏さまは調子狂うんですよ)

夢の中だから。

だから、Aはそう言った。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

目を開けると、見慣れない天井があった。

手を動かす。
ふわりとした敷布の感触が肌をなでる。

「...ん、」

まだ頭がぐらぐらする。

(かなり強く殴られたもんなあ)

なにも後遺症とかのこらないといいけど、とAは思う。

「A、起きた？」

「水蓮、さま」

「医局に寝かせるのもなんだって、壬氏さまがここに連れてきたのよ」

じゃあ、自分は今壬氏さまの寝台に寝ているのか、と気づき、あわてて降りようとする。

「すみません、すぐ起きま＿＿＿うっ」

足の痛みに顔をゆがめる。

痛い。痛いが、頭の痛みがそれほどのものではないとわかり、すこしほっとする。

危ない、これでもしも足と頭が同じくらいの痛みだったら、脳の後遺症を本当に覚悟しなければならなかった。

「あらあら、大丈夫？足の傷、十五針も塗ったのよ」

(ざっくりいってたものね)

靴を履いたらそこまで目立たない場所でよかった。

これでふくらはぎなどにやらかしていたら、小姐や婆に本気でおこられるところだった。

「起きてすぐで悪いけれど、皆さん、あなたの説明を待っているわ。
着替えが終わったら呼んでいいかしら」

Aは頷いた。