傾国のひとりごと肆 (ページ30)

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　　　肆ページ30

よろけながら必死に階段を上って、高官たちをおしのけて、祭壇の柱の下の貴人の姿を焦点の合わない目で何とかとらえる。

もう何も考えられない。

困惑の声も、怒号も、何の音も聞こえない。

でも、あそこに行かないといけないことだけはわかる。

あの御仁を、あの場所からどかさないといけないことはわかる。

走る。必死に手を伸ばす。

　
　

　

ぱきっと小さな音を立てて金具が壊れるのと、Aが貴人もろとも祭壇の外に飛び出したのがほぼ同時だった。

　
　

　

ゴオンと、鈍く、大きく、恐ろしい音がAの鼓膜を揺らした。

柱が落ちてきたのだった。

周りのざわめきが、ぐわんと痛いくらいに響く。

(あ、音、もどってきた)

朦朧とする意識の中、Aはどうでもいいことを考える。

足がずきりとした。

「うっ...」

何か赤いものが見える気がする。

(切ったかな、縫わなきゃ)

ふらふらしながら懐に伸ばした手を、助けた相手がつかむ。

Aはその御仁の顔を見た。

よく知っている、相手だった。

「...薬屋？どうして...

おい、頭のここが赤黒いぞ、どうした、なにがあった、」

(あ、これだめだわ)

瞼を開けていることもできない。

(壬氏さま、牛黄を)

そう言ったつもりだが、ちゃんと言えていただろうか。

Aは意識を失った。