弍 ページ28
「止まれ！」
蒼穹壇。
あっけにとられる元祭壇設計士の男に中祀の場所を聞き出し、走って向かってきたAを、入り口の階段で軍人らしき男が大声で止める。
「なんだお前は！」
「...通してください、緊急事態です！」
「神事の最中だ、お前のような下女を通すわけにはいかない」
ざわざわと周りも騒ぎ始める。
(そりゃ、そうだわ)
こんな小娘の言うことなど聞いてはくれない。
ここは宮廷。
周りの皆がAに甘かった、花街ではないのだ。
何も起こらないかもしれない。
Aの思い過ごしかもしれない。
でも、
(取り返しのつかないことは、いつだってそうやって見過ごされた先にある)
いちか、ばちかだ。
「...あの祭壇には構造上の致命的な欠陥が見つかりました。
なにものかが工作した可能性があります」
Aは目の前の男をみる。
紫色の光が挑発的にゆらめく。
「ああ、もしかしてあなたですか、止めに入るものを阻止して、事が起こるよう。
だとすればあなたも工作した輩の一味だと」
男の顔がどんどん険しくなる。
避ける暇もなかった。
ごっ、と鈍い音を立てて男の拳がAの頭を打った。
Aはその勢いで倒れ込む。
くらくらする。でも、階段から落ちなくてよかった。
後頭部を打ったら命さえ危なかった、などと頭のどこかで考えながら、Aは必死に立ち上がる。
だめだ、この程度の騒ぎでは祭祀は止められない。
でも、止めなきゃ。
(私が止めなければ、中の御方が犠牲になる。私も、牛黄がもらえない...！)
「...お願いします。鼠だと思って見逃してください」
じり、と男が後ずさる。
焦点の合っていない紫色の不気味さに、押されたのだろうか。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
