中祀 壱 ページ27
「...昨日はAに頼まれて正解です」
ご自分で調べられると言い出したらどうしようかと思いました、と高順。
「自分の分はわきまえているさ」
水蓮に衣を着せてもらいながら、壬氏は静かに言う。
いつもと違い、おろしていた髪を結い、上で一つにまとめている。
「今日ばかりは仕方がない。中祀の日なのだから」
高順がうなずく。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「礼部は祭祀を取り扱う職ですよね」
「ああ、祭具の管理や手配も任されている」
ここは盗みのあったらしい倉庫。
壬氏の前でなんでも調べると言ったAは有言実行している。
折り合えず行ってみれば何かわかるのではないかと思い、現地に赴いたのである。
「なんだか物が少ないような気がしますが...
まさかほとんど盗まれたんですか？」
「違う違う、今日は中祀が行われる日だから運び出しているだけ、ほら」
Aを案内している官が、なにか書物を広げる。
Aがのぞき込むと、なにかの設計図らしきものが書かれていた。
「こんな感じで祭壇を組むんだ」
「はあ。この天井から下がっている布は何ですか？」
「ああ、それは祝いの言葉が書いてあるんだ。
毎回中祀が行われるたびに増やすんだ、吉事を願って」
「そうなんですか。こんな高い位置に布をかけるのは大変でしょうに」
「ん？あ、いや、その部分は構造が特殊でね。
柱を
下げた状態でひれをつけて、それを滑車で吊り上げる」
Aは顔を上げた。
「...ずいぶんお詳しいのですね」
「ああ、前は祭壇の設計をしていたからね。
ただ、鉄線や祭具の強度について進言したら外されてしまって」
「強度...？」
何か、嫌な予感がする。
「ああ、天井から柱を吊り下げるって言ったろ？
その柱の真下で祈祷するのはやんごとなきお方だからね。
もし鉄線が切れでもしたら、そのお方が柱の下敷きになってしまう。
盗まれた祭具の中に鉄線を固定する部分もあってね。
すぐ代わりが見つかったからよかったけど」
「代わり...」
「ああ、元のと同じ彫金細工師が作ったものだから問題ないだろうってさ。
やっぱり私の心配しすぎだったのかな」
頭をかく男。
(彫金細工師____)
やっぱり、思い違いなんかじゃない。
「すみません、その中祀って、いつ行われます！？」
男は怪訝な顔で言う。
「？言っただろ、今日だよ」
Aの顔が、さっと青くなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
