参 ページ26
「あの男は武官か？」
なぜぶすくれているのだろう。
Aは疑問符を頭に浮かべながら、質問に答える。
「ええ。そうですが」
「ずいぶん親しそうだったが」
「そういうわけではありませんが。相談を受けていました。
詳しくお話してもよろしいでしょうか？」
「なぜ俺に？」
「亡くなられた浩然さまに関することです」
Aがそういうと、壬氏はさきほどまでの子供っぽく不満を前面に出した顔から真剣な顔になって言った。
「わかった。話を聞こう」
「倉庫の小火、盗み、礼部の長官たちの死や昏睡...それらの事件につながりがあると？」
「まだはっきりとは言えませんが」
(なんとなくあの翠苓っていう官女が気になるけれど。まだ言うには確証がなさすぎるわ)
手がかりが背の高い、薬の匂いの女というだけである。
「それで、お前はどうする」
「どう、とおっしゃいますと」
「乗り気ではないのか」
「本来の下女の仕事ではありませんから」
気になったことは調べるが、厄介ごとは御免だ。
そんなAの様子を見て、壬氏が筆を手に取ると、紙に何かをさらさらと書く。
「高順、これの手配を」
「え、壬氏さまそれは」
「いいから」
何の話だろう。Aは怪訝な顔で見る。
「先日、交易商人から面白い品が入ったと聞いてな。これなんだが」
ぺらりと紙をめくる。
紙には牛黄、とかかれていた。
その文字を見た瞬間、Aの顔色が変わる。
「こっ...これは」
「非常に貴重な薬と聞いた」
にっこりと笑う壬氏。
「き、貴重です...牛の胆石で、取れるのは千に一頭だとか...
私もまだ見たことはなく...」
声が、手がぷるぷると震える。
「ほかならぬ浩然どのにかかわることだ、私自身で調べたい。
が、私はすぐには身動き取れない。
だからもし私の代わりに調べてくれる者がいたら、私はできる限りの礼を尽くそうと思うのだが、
どうする？」
本当に牛黄があるのか。もしかして、この宦官は私にくれるとでもいうのか。
「やります、調べましょう、なんだって！」
Aは意気込んで言った。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
