弍 ページ25
「なあ、なんだか妙な気がしねえか？」
Aはうなずく。同意見だった。
「まるで最初から誰かに渡すために持ち歩いていたかのようですね。
こんな立派な煙管、もらったら、ついその場で使ってみたくなる人もいるでしょうし」
「その官女、暗がりで顔はよく見えなかったそうだ。
寒かったからか襟巻で顔の周りを覆っていて、わかっているのは上背のある女だってことと、
薬の匂いがしたそうだ」
Aは目を見開いた。
「ほかに、何か不可解な事故や事件はありませんでしたか？」
「急に言われても...なにかあるのか？」
「あるかもしれないし、ないかもしれません」
どっちだよ、とあきれる李白を無視して木の棒を手に取り、地面に何か描き始めるA。
「たとえば、偶然が二つ重なることはありますよね」
円を二つ、一部が重なるように描く。
「お、おう」
「偶然がいくつも重なれば、それは必然になると思いませんか」
もう二つの円を、これも一部がそれぞれ重なるように書き入れる。
四つの円がそれぞれ少しずつ重なった図ができた。
Aはその中心、四つの円がすべて重なっている部分を指し示す。
「この『必然』部分に祭祀がかかわっているように思えるのですが」
李白は一瞬首をかしげて、手を打った。
「嬢ちゃんは見かけによらず頭がいいな！」
ばんばんと背中をたたかれる。
「李白さまは見かけ通り馬鹿力なので加減してくださ」
い、と言い終える前に、Aは背中に悪寒がして体を震わせる。
しゃがんだまま振り向くと、渡り廊下の柵からこちらをを見下ろす、どんよりした空気をまとった貴人がいた。
「楽しそうだな」
「...楽しくはありませんけど」
いつものように半眼で答えた。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
