祭祀 壱 ページ24
「おーっ、嬢ちゃん、いたいた！」
Aが言われた通りに拭き掃除をしていると、駄犬こと李白が手を振って近寄ってきた。
「どうしました？こちらに何か御用でも」
「いや、嬢ちゃんに用があったんだ。困ったことが起きてな」
「困ったこと？」
「前に小火のあった倉庫の話したろ？」
「ええ中で倉庫番の煙管がみつかった」
「そう、それなんだがな。実はその日、他の倉庫で盗みがあったんだ」
「騒ぎに乗じて、ってことですか」
「ああ。小火は陽動だったのかもしれないな」
(鋭いわね)
Aは駄犬を見直した。
「何が盗まれたんです？」
「あー。それは」
李白が手招きをする。あまり人に聞かれたくない内容らしい。
渡り廊下から降りて、段差にしゃがみこむ。ここならば誰も気にしないだろう。
「祭祀に使う、祭具なんだ。
いくつかなくなったらしいんだが、くわしくわからねえんだよな」
「いくつかって...そんな杜撰な官吏なんですか」
呆れて李白を見る。礼部の人間は何をしているのだろう。
「いや、ふつうはそんなことねえんだけどよ。
たまたま責任者がいなかったんだよ。管理してる礼部の長官は亡くなったばかりだし。
あれ、あの甘党で酒好きの」
なんといったかな、と李白は頭をかく。
Aは目を見開いた。
「それって、浩然さまですか！」
「ああ、そうそう！んで、後任も就いてすぐに倒れちまってよ。
なんでも、食中毒で昏睡状態らしいが」
「それって、珍味好きの官吏の話ですか」
「何で知ってるんだ？」
「いえ、たまたま...」
たまたま立て続けに礼部の長官が倒れる事件が連続して、同時に小火騒ぎが起きて、祭具を盗まれる。
どれも一見して無関係のようだが、もしこれが一つの目的のために仕組まれたものだとしたら。
「どうした？」
「いえ...なんでもありません。それで、私に何の御用ですか？」
「ああ、本題はこっちだ」
李白が煙管をさしだす。見覚えがある。Aが夜なべして磨いたものである。
「倉庫で拾った煙管ですよね」
「ああ。倉庫番に返すよう嬢ちゃんから預かってたけどよ、突っ返されちまった。
せっかく磨いてくれたのに悪いな」
「高いものではなかったのですか」
「うーん、それが、知らない官女からもらったっていうんだよな」
聞けば、小火が起こった夜に、倉庫番は一人で外廷を歩く官女を見たらしい。
危ないからと門の近くまで送って行ってやったところ、お礼に煙管をくれたのだそうだ。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
