参 ページ22
「あの、さっきの方軍部に勤めているんですか」
「翠苓のことか？
そうだよ、いいよな翠苓、美人だし」
(見る目があるわね)
この医者がどれほど医のつく類に精通しているのかは知らないが、少なくとも素材の良さを見抜く力は優れているようだとAは思う。
医官は急に恥ずかしくなったのか、慌ててAに紙袋を渡す。
「な、なんでもない。ほら、薬だ、さっさと行けよ」
「はあ。ありがとうございました」
これ以上いても仕方ない。
Aはおとなしく出ていくことにした。
(袋にはなにもかかれていないわね)
Aは薬が何かが気になり、歩きながらしげしげと見つめていた。
水蓮に渡された紙片の中身は読んでいないが、何か書かれていたのだろうか。
見ておけばよかった。
「すこしだけ、」
誰もいないのに言い訳をしつつ薬を少しつまんで口に入れる。
(芋の粉？)
こんな味の薬、知らないなあ、などと考えながら歩いていると。
ふと、目が吸い寄せられた。
厩の近く、地面から見たことのある草が生えている。
思わず駆け寄る。手が汚れるのも厭わず土を掘ると、出てきたのは太く短い根っこである。
「地黄だぁ...！」
ぱあ、っとAの顔が輝く。
外廷にはあまり薬草がないと思っていたけれど。
(厩の近くだから栄養が多いのかしら？いや、それでも自生するには)
Aは厩の裏に回る。
少し向こうに小さな丘のようなものがあって、いろいろな草が生い茂っているように見える。
走ってそこまで向かう。
(これ、ほとんど薬草だわ...！)
Aは目をきらきらさせて薬草にさらに近づく。
「すごい、とうさんの畑みたいだわ」
わくわくしながら手短な草の葉をちぎろうとすると。
ぽん、と後ろから軽く頭をたたかれた。
振り返ると、背の高い女官こと翠苓が籠と鎌を持って立っていた。
どうやら今度はこぶしではなく籠ではたかれたらしい。
なんだろう、人の頭を後ろからたたくのは彼女なりの挨拶なのだろうか。
Aは半眼で彼女を見た。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
