弍 ページ21
「失礼します」
Aが医局の扉をあけると、若い医官が薬匙で粉薬を量っているところだった。
「お薬、いただきに来ました」
紙を渡す。
医官はうなずくと、「いつものね、ちょっと待ってて」と言って奥に消えた。
暇になったAはきょろきょろとあたりを見回す。
(後宮の医局より整頓されていて、薬の量も豊富だわ)
ちょっと見るだけ、とAは薬棚の方に近づく。
浮かれていたせいで、医局の扉が開いたのにも気が付かなかった。
「いっ...た！」
急に頭に衝撃を覚えて、Aはうずくまる。
後ろからこぶしを落とされたようである。
ふわりと苦い香りがする。
香と、薬特有の苦みが混ざったようなこの香りには覚えがある。
Aはふりむいた。
案の定、背の高い美人な女官が立っていた。
「やあ、翠苓」
いつのまにかさっきの医官が戻ってきて、嬉しそうに女官に挨拶をした。
「あなた、ここでなにやってるの？」
医官を無視し、翠苓と呼ばれた女官はAに問う。
「主人の使いで薬をもらいに来ただけです」
なんで殴るんだ、という抗議をこめながらAは言う。
「そう。太医、詰所の常備薬をいただきにまいりました」
翠苓はAの不満げな表情など気にも留めず、医官に向き直った。
(詰所、ね。
そういえば前に会ったときも軍部の方から出てきたわね)
こうやって医局に出入りしているから薬の匂いがするのだろうか。
「ほかに足りないものはないか？あればなんでも」
「ありません、失礼します」
医官が引き留めようとするところを、翠苓はそっけなく返して医局を出ていく。
医局には、しゅんとした医官とAだけが残される。
(...取り付く島もないわね)
少しだけ、かわいそうだと思った。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
