傾国のひとりごと肆 (ページ20)

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医局　壱ページ20

「今日の料理は精進料理だから、あなたも肉や魚は食べないようにね」

水蓮に言われたのが、朝のことである。

明後日まではそれがつづくらしい。

(禊ですか、とは聞かないけれど。何かの祭祀かしら)

宦官も祭祀に参加するのか、とAは不思議に思う。

壬氏は後宮だけでなく外廷でも要職についている。
話の内容から考えるに、従軍経験もあるようだ。

さらに祭祀で何かしら役割を与えられているとなれば、相当高貴なお方なわけだ。

(壬氏さまは二十五。宦官になったのは先帝の時代のことよね。
暗愚な帝にかわって皇太后が権力を握っていた時代なら、ありえなくもないかしら)

あの頃の皇太后なら、お気に入りを宦官にして後宮に置くことなど容易だったろう。

優秀な医官だったとうさんを宦官にしたのと同じように。

そこで、Aは思考を止める。

(知らなくていいことは知らないままで)

色々知ってしまうと、それはそれで面倒そうだ。

Aは一つ頷くと仕事に戻ることにした。

「ちょっとA、おつかい頼まれてくれる？」

水蓮がAに紙を手渡す。

「なんでしょう」

「医局まで薬を取りに」

外廷の医局は軍部に近い方にある、と昔教わった気がする。

「頼んでいいかしら？」

「はい、行きます！いかせていただきます！」

Aは目を輝かせてそう答えると、走っていった。

一人残された水蓮はしばらく目を丸くしていたが、あらあらと頬に手を当てると、

「いつもあれだけにこにこしていたらいいのだけど」

とつぶやいた。