価値 壱 ページ17
「価値を下げる、ですか...
何とも嫌なことを聞きますね。
あるには、あります」
「ほう？」
身を乗り出す壬氏。
やっぱり本人の話か、とAは半眼になる。
が、すぐに元の表情に戻ると、また話し出した。
「例えば緑青館では、見た目がよく芸の立つ妓女は簡単に身を売らせません。
手が届かない、純潔な花ほど価値が上がるものです」
だから、Aはほとんど客を取らずに窓辺で黄昏ているだけで済んだのだった。
「その花を手折るだけで価値は半減します。
さらに、子など孕ませれば価値など無いに等しくなる___」
「...すまない、嫌なことを聞いた」
「いえ。でも壬氏さま、もし困ってらっしゃるなら、
そんなことせずとも私を売ればそこそこお金になりますよ」
買い値の一、二割引き程度にはなりますが。
そう言うと、壬氏はむず痒そうな顔になり、下を向くと大きくため息をついた。
心外である。
____________________
「やあ、どうもどうも」
長椅子を持った部下を引き連れて、変人軍師が壬氏の部屋にやってきた。
手には果汁水をもっている。
長居の構えである。
「先日の彫金細工師の話、続報をお持ちしましたよ」
「続報ですか」
げっそりとした顔をしながら、壬氏が相槌を打つ。
「ええ、あの一件以降三兄弟は仲直りしたように思えたのですが、三男がめきめき頭角を現すようになりましてな」
ぴたりと壬氏の筆が止まる。
「あの遺言の謎が解けてから、以前にもまして繊細な細工を仕上げるようになって。今後、祭具などの依頼は三男に出すことになりそうです」
「そうなれば上二人が黙っていないのでは？」
「優れた才を年下だからと埋もれさせておくのですか？
上に上がる才があれば取り立ててやるべきでしょう」
(才を見出す目は確かなんだが)
壬氏は心の中でため息をつく。
家柄や年齢にこだわらぬ人材登用においての采配は見事だ。
だからこそ大尉の地位にまで出世し、さぼっていても軍部はつつがなく動いているわけだが。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
