参 ページ16
あの頃は、化け物だと思ってた。
化け物は、私を見下ろしていた。
ざんばらの髪からのぞく血走った目。私の手を握る、ぬめった手、錆臭い。
その化け物は私に刃を向け、
(莫迦な女____)
____________________
ふぁあ。Aはあくびを一つした。慌てて最後は噛み殺す。
そのせいで少し変な顔になった。
「あらあら、おねむの時間にはまだ早いんじゃない？」
水蓮が穏やかにたしなめてくる。
(...久々に会ったせいかしら。立て続けに変な夢を見た、今更あんな昔のことを...)
里帰りから戻ってきて、もう二日経っているのに。
切り替えないと、とふるふる頭を震わせる。
「どうした、薬屋？随分疲れた顔をしてるな」
壬氏が言う。今日は、そこまで甘い笑みをぶら下げてはいない。素朴な表情だ。
「...少しばかり夢見が悪かっただけです。
それより、そちらは先日お楽しみ頂けましたでしょうか」
Aが聞き返すと、壬氏は一瞬固まって、それから慌てて訂正する。
「あっ、待ち合わせ相手はそういう相手じゃないぞ！
本当だ、ただ飲みにいっただけだ。
おい、興味を失うな！」
なんだ、つまらないの、という表情をしていたのがばれたらしい。
「___なあ、お前、妓楼の話には詳しいよな？」
「ええ、まあ...」
Aは怪訝な顔をする。
「その、例えばの話なんだが。
気に入った妓女がいたとして、でも他にも狙ってる男がいて...」
「...誰の話です？」
「断じて俺ではないぞ！」
なぜか必死な壬氏。
はあ、そうですかとAは興味なさげに頷いた。
「...それで、競争相手に値を吊り上げられて手が出せなくなりそうな場合、
“妓女の価値を下げる”には、どういう手があるんだ？」
Aはぱちりと一度だけ瞬きをした。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
