厩 壱 ページ1
(冬場はやっぱ少ないなあ)
Aは、唸っていた。
昼間、仕事の合間にかき集めた植物は微々たるもので、調合するにはまだまだ足りない。
仕方ないのできれいに洗い水気を拭いて部屋の壁につるしておく。
宮廷に来てから毎日そんなことをやっているものだから、Aの部屋はかなり怪しげなものへと変わっていた。
もちろん住み込みの下女に与えられる部屋にしては立派な作りだ。
後宮で与えられていた部屋と変わらないくらいの大きさである。
でも、翡翠宮では許可をとれば炊事場は使わせてもらえたし、材料も豊富だったためすぐ調合できたので今の部屋ほどかさばっていなかった。
(さてどうしよう)
Aは慣れたものだが、この部屋はかなり臭いらしい。
そりゃあ、良薬口に苦しという言葉があるくらいなので、薬草には苦味や臭みが強いものが多い。
Aの部屋の両隣は、現在空室だからよいものの、部屋の前を通る下女があからさまに速足でいくのを見ると、そういうことなのだろう。
そのうちとやかく言われるだろうな、とAは今までの経験でわかっていた。
(なんかいい場所空いてないかな)
これではゆっくりと調合もできなくなる。せっかくいただいた美しいきのこが台無しになる。
Aは行李の上に大事に置いた桐箱を眺める。絹紐で封されたそれは、虫が種となり生えてくる草であった。
Aはそれを見ると、思わず頬がほころびるのを感じた。
にやにやと口元も緩んでしまう。
(だめよ、だめ)
先日、そのまま声をあげてしまい、二つ隣の部屋の住人から扉を蹴られて抗議を受けたのだった。
真夜中に奇声を発するな、眠れないとのことだ。
Aはゆるんだ頬を指先でほぐすと、寝台の上に寝そべった。
下女の仕事は朝早い。鶏の鳴く前に起きなくてはならない。仕えるかたは、大事なものはなくなったとはいえ、麗しく貴きかたである。ご機嫌をそこねてはいけない。
薄い上掛けに、何枚も衣服を重ねて、頭巾を深く被り直して、Aは目蓋を閉じた。
___________________
「今の部屋は手狭ではないか？」
朝粥を食みながら、麗しき宦官は言った。
壬氏の言葉にAは瞬きを一回だけする。
「下女風情には十分な作りのものを与えられております」
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作者名：泉 | 作成日時：2024年2月2日 10時
