傾国のひとりごと参 (ページ50)

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調べなおしてみたところ、犯人は倒れた役人の弟だった。

買い付け先からたどるとすぐに判明し、本人も認めた。

動機はいたって単純。
長子に比べ軽んじられる次子の立場に嫌気がさしたとのことだった。

ただ一つ残った謎がある。

あの海藻が有毒であることをどこで知りえたのか。

男の証言によると、酒場で飲んでいるときに偶然十年前の事件を知るものと隣り合い、世間話として教えてもらったというが。

果たして、それは偶然なのか。

　

(そんなの、わかるはずもないけれど)

掃き掃除をしながらAは空を見上げる。

浩然さまの死、倉庫の小火。立て続けにいろいろ起きている。

(結局、あの毒ありの海藻は捨てられてしまったし)

非常にもったいないことである。

(駄目だわ、楽しいことを考えよう。例えばあの冬虫夏草...)

丸薬にしようか、薬酒にしようかと考える。

それだけで口元が緩むのだから、我ながら単純である。

「薬屋？」

「おかえりなさいませ」

突然聞こえた主の声に、Aはほぼ反射的に返事を返す。

笑顔のまま、振り返って。

壬氏が目を見開いて固まる。

Aはしばらくしてやっと表情を元に戻した。

(満面の笑みで迎えてしまった。さぞかし気持ち悪かったでしょう)

壬氏が踵を返し、よたよたとおぼつかない足取りで歩いていく。

その方が一瞬震えたかと思うと。

壬氏が急に柱に頭を打ち付け始めた。それも、かなり勢いをつけて。

「.......」

Aは何も見ていないことにしようと決めた。