捌 ページ48
翌日、高順に頼んで使っていい厨房を準備してもらった。宮廷内にある役人の詰所で、夜寝泊りできるようになっているらしい。
Aは、前の晩から用意していたものをそこで調理する。
調理といっても大したことじゃない、水につけて塩抜きしたものを盛るだけだ。
簡単な作業だが、ことがことだけに壬氏の棟にある厨房を使うべきではないと思って、別に用意してもらった。
そして、今、二つの皿がAの前にある。昨日、こそっと持ってきた海藻を二つに分けて水にさらしたものだ。鮮やかな緑色をしている。
Aの前には、高順と事件について相談してきたという官、昨日、Aを案内した馬閃、それからなぜか壬氏もいる。
野次馬根性を見せると水蓮に行儀が悪いとまた怒られるぞ、とAは思う。
「調べてきたら、その通りでした」
Aの方をちらちらと見ながら馬閃は言った。
昨日の海藻は、南から商人に持ち込まれたものだった。
「あの後、もう一度、下男に聞きました。そういえば冬場にあの海藻を食べることはなかったと。他の使用人たちにも聞きましたが、概ね同じ答えが返ってきました」
そんな中、首を横に振るのが事件を相談してきた官だった。
「この海藻についてはもう話は料理人に聞いている。普段使っている海藻と同じ種類のもので、毒のはずがないといっている」
Aはそれには賛同する。同じ種類の海藻だ。
でも違う点があるとすれば。
「毒がない、というわけじゃないんですよ」
Aは箸で、皿から海藻をつまみながら言った。
「もしかして、南ではこの海藻をあまり食べる習慣がないのではないでしょうか?
今回、美食家の役人の言葉で、金になると思った交易商がわざわざ地元民に海藻の塩漬けを作らせたとしたら?」
「……それのどこが問題になるのだ?」
たずねたのは壬氏だった。今日は人前のためか、最近見せる妙に気が抜けた雰囲気はない。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月27日 22時