陸 ページ46
高順の手配は早く、翌日にはAは例の料理人の厨房に入る手はずになっていた。
すでに、事件を取り扱った役人たちはもう終わったものと見ており、簡単に入れたらしい。
普通はそうだろう、高順の知り合いとやらが細かすぎる、と周りは見るはずだ。
屋敷は都の北西に位置し、周りはどれも立派な家ばかり並んでいた。宮廷のある街の北側は、主に高級官僚ばかり住むのでこんなものだろう。
屋敷では疲労で痩せた奥方が眠っているとあって、下男が代わりに通してくれた。すでに奥方の了承は取っているから問題ないというが。
(下男ねえ)
Aは不思議に思いながら、その場所へと向かう。
連れには、高順が手配した官がついているが、Aのことをずっといぶかしんでいる。
馬閃という名前だそうだ。
武官だろうか、まだ年若く身体は完全にできていないが、全体的に無駄のない動きをする。
誰かに似ているなあ、とふと思った。
あまり快く思われてないようで、目を見ようともしてくれない。
高順の命令なら聞くようで今のところ特に問題はないが。
Aとしても、別に仲良くなろうとは思わないのでそれでいいと思う。
運のいいことに、毒物を使った食を作ったとして、厨房は事件ののち使われていなかった。
Aがてくてくと厨房に入ろうとしたときだった。
「なにをやっている！」
目を吊り上げながら男がAのところへと走ってきた。上等な服を着た三十路ほどの男だ。
「勝手に屋敷に入るな、でていけ！ お前か！ こんな奴らを連れてきたのは！」
案内してきた下男の襟をつかむ男。
Aが半眼で見ていると、連れだった官が一歩前に出た。
「ちゃんと奥方の確認はとっています。それにこれは仕事ですので」
暴力的な男に対し凛とした口調でいい返す官に、Aは心の中で拍手した。
「それは本当か？」
男は襟をつかんだ手をゆるめた。
下男はげほげほむせながらそれを肯定する。
「入ってもよろしいか？ それとも、なにか不都合でも？」
官の言葉に、男は舌うちをしながらも、「勝手にしろ」と吐き捨てた。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月27日 22時
