伍 ページ45
Aが壬氏を冷めた目で見ていると、壬氏からやんわりと竜眼をとる手が伸びた。
「お行儀の悪い子に点心は抜きですよ」
ふふふ、と朗らかな笑顔を浮かべた水蓮が壬氏の後ろに立っていた。なんだろう、この雰囲気。
Aには彼女の背後に暗雲が立ち込めているように見えてならなかった。
「わ...わかっている」
壬氏が眉を下げ、肘をつくのをやめ、正しい姿勢になると、ばあやは「よろしい」と頷きつつ、竜眼を壬氏の手に戻した。
甘やかしてばかりいると思いきや、ちゃんと行儀作法には厳しい一面があるのだな、とAは思った。
多少話がずれたが元に戻すとする。
「事件が起きたのはここ最近ですよね？」
「一週間ほど前です」
時期としてはまだまだ寒い。鱠といえば胡瓜が一般的に使われるが、この季節であれば、他の根野菜を使うだろう。
「材料は、大根か
冬場でも使われる野菜は限られる。食材には旬があり、食べる時期も限られる。
「それが、海藻を使ったといっていまして」
高順の言葉にAは「あっ」と口を半開きにする。
「海藻ですか？」
Aが聞き返す。
「海藻です」
高順がもう一度言った。
海藻は食用としても漢方としても使われる。
鱠の材料として使われることもあるだろう。
その言葉を聞くと、Aはおもわず頷いていた。
(珍味を好むということは)
多少、変わった海藻を入れることもあるだろう。
にやりと口の端が動く。
それを、壬氏たちがぽかんと見る。
Aは目を細めながら高順を見た。
「もしよろしければ、その家の厨房の中を見せてもらうことはできませんか」
そう、駄目元で高順に言った。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月27日 22時
