肆 ページ39
Aは荷車を押しながら講堂の中央に立つと、ゆっくりと頭を下げた。
「今回、講師を承ったAと申します」
玉葉妃はあいかわらずお綺麗で、袖から小さく手を振っていた。それを玉葉妃お付の侍女である紅娘が半眼で見つめている。
梨花妃はほぼ前と変わらぬふくよかな体型に戻り、穏やかな顔でAを見ている。
付いてきた侍女が、Aを見るなり耳まで赤くしたのはご愛嬌だ。
里樹妃は、相変わらずどこかおどおどしている。
上級妃が自分の他に三人もいれば、気をつかうのだろう。
付いてきた侍女は同じくおどおどしながらも、妃を守ろうとしていたのが妙に微笑ましい。
そして、最後の妃。
Aは初めて見る顔だ。
先の上級妃阿多の後に入ってきたのは、Aと同い年の娘だった。
新しい淑妃は楼蘭といい、黒々とした髪を頂点で結い上げ、南国の鳥の羽根を簪がわりに使っていた。
服装からして南国の姫だろうか?
いや、顔立ちは中央よりだ。お付の侍女も同じで、服装は単なる趣味なのだろうとAは思った。
妃になるというだけあって、それ相応に美しい顔立ちをしていたが、玉葉妃ほど艶やかでもなし、梨花妃ほど絢爛でもない。
せいぜい、園遊会の時のAくらいだ。
里樹妃と違い、年齢からして皇帝の御手付きになるのは決まっているが、今のところ、後宮の調和を崩せる人材には見えなかった。
(どうでもいいか)
Aは、自己紹介を簡単に終えると荷物の中から教本を取り出して、一冊ずつ妃たちに配る。
妃たちがそれを受け取ると、各々、目を見開いたり、楽しそうに微笑んだり、顔を真っ赤にしたり、眉間にしわを寄せたりと反応した。
(うん、そうだろうね)
Aはさらに道具を取り出してみる。
何かしらと首を傾げるものが半分、使い道を知っているものがそのまた半分、なんとなく感づいて顔を赤らめているものが残りといった顔をする。
「これから、教えることに関しては女の園における秘術ゆえ、他言無用にお願いします」
Aはそういうと、教材の三頁を開いてくださいと頼んだ。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月27日 22時