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   伍 ページ35

「ああ。わかった」

放心した顔で李白が答える。顔が真っ青だ、いくら身体を鍛えていても早く暖まらないと風邪をひいてしまうだろう。早く部屋に戻って暖をとればいいのに、李白はAをじっと見ている。

「なにがどうなってるんだ?」

 疑問符の浮かんだ顔は、Aにどうして爆発したのか聞いてきた。李白の部下たちも同じ顔をしている。
 
 Aは、先ほど箱の中に入れたものの残りを取り出す。麻袋からでてくるのは白い粉で、さらさらと風にのって霧散していく。

「燃えやすい粉、小麦や蕎麦でも空中に舞うと、それに火がつくことがあるんです」

それが爆発するのだと、ただそれだけだった。
知っていれば、誰だってわかる話だ。ただ、李白はそれを知らなかっただけに過ぎない。

「んなことよく知ってるな」
「ええ、よくやりましたので」
「よくやった?」

わけがわからないと、李白も部下も顔を見合わせる。
それはそうだろう、狭い部屋の一室で粉まみれになりながら仕事をするなど、彼らには一生縁のない話だ。
Aも緑青館で間借りしている部屋を吹っ飛ばして以来、気をつけるようになったくらいなのだから。

「風邪をひかぬよう気を付けてください。ひいたらひいたで花街の羅門という男の薬はよく効きますよ」

営業活動も忘れない。白鈴に会いに行くついでに買ってくれるかもしれない。おやじどのは商売っ気がないので、Aがこれくらいしてやらないと、飯をくいっぱぐれる可能性もある。

(思ったより、時間を食ったわね)

 Aは反古の入った籠を持つと、ごみ捨て場に向かった。すぐそばなのでさっさと下男に渡して帰らなくてはと思う。

(あっ、これ持ってきちゃったな)


 Aは襟に先ほど拾った煙管の欠片が入っていたことに気が付く。
少し焦げているがかなりの上等なもので、倉庫番程度が持つには立派過ぎた。

(もしかしたら大切なものなのかも)

 細工部分をきれいにして、新しい吸い口をつければ元に戻るだろう。
けが人はいたが死者はいないと聞くので、持ち主は怪我で療養しているに違いない。
火事の原因になった忌むべきものかもしれないが、それを売ればそれなりの金にはなるだろう。たとえ、火事をおこした原因で解雇されようが、金になるのなら受け取るに違いない。

 Aは、とりあえず煤で汚れた象牙細工を懐に入れなおした。今夜は夜なべしなくてはいけないな、と思いながら。

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作者名: | 作成日時:2024年1月27日 22時

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