肆 ページ34
「妙に手馴れてるな」
のぞきこんでくる李白は玩具の球を見つけた犬のようだ。
「育ちが悪いものでして。ないものは作らねばなりません」
嘘はついていない。
Aの育ちは、良くはない。
とは言え何ももらえなかったわけではないのだが、Aは近しい人以外から何かもらうのは好きではない。
借りを作ることになるからだ。
それなら自分で作った方が良い。
仕上げに焼けた倉庫のそばにある荷から、あるものを取り出すと木箱の中に入れた。
「すみません、火種ありますか」
Aが言うと、部下の一人が火のくすぶる荒縄を持ってくる。そのあいだに、Aは井戸から水を汲んで持ってくる。李白はわけがわからないまま、木箱の上に腰掛けて頬杖をついて見ている。
「ありがとうございます」
Aは火種を受け取ると、李白の部下に頭を下げる。部下もなんだかんだ言って、何をやるのか興味があるようで、少し離れた場所で座り込んでAを見ている。
Aは火種を持ったまま、蓋をつけた木箱の前に立つが隣にはなぜか李白がいた。
「李白さま。危ないので離れていてはくれませんか」
「なにが危ないんだ? 嬢ちゃんがなにかやるんだろ。武官の俺が危ないものか」
随分、大きく胸を張るので、仕方ないとため息をつく。こういう型は、実際体験しなければわからないのだ。
「わかりました。危険なので重々気を付けてください。すぐ逃げてくださいね」
いぶかしむ李白を後目に、Aは近くにいた部下の袖をひっぱりこちらへ来いと誘導する。倉庫の裏から見ているように伝える。
戻ってきたところで、先ほどの木箱に火種を投げ入れると、頭を隠しながら走って行った。
箱から炎が爆発したように噴き出し、激しく燃え上がった。
「うおぉぉぉ!」
燃え上がった火柱を李白は寸前で避ける。よけたのはいいが、揺れていた髪の一房に燃え移った。髪に火が付き慌てふためく李白に、Aはあらかじめ用意しておいた桶の水をぶっかける。髪の焦げるにおいと煙を残し、火は消えた。
「逃げてくださいって言ったのに」
これで危ないという意味がわかったか、とAは李白を見る。
「……」
鼻水を垂らす李白に、急いで毛皮をかける部下。その目はなにか言いたげだが言い返せない様子である。
「倉庫番のかたに、倉庫で煙管はおやめくださいとお伝え願えますか」
Aはおそらく火事の原因であろう事柄を教える。憶測であるが、これが真実だといえる。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月27日 22時