参 ページ28
「薬屋」
柱を雑巾でふいていたAは振り向く。
壬氏が布に包まれた何かを持って立っていた。
「昨日言っていたものを調べてきた。それと瓶の破片だ」
壬氏の執務室に戻って、壬氏の持ってきた巻物を開く。
「...仕事一筋の方だったのですね」
「真面目な方と言ったろう。女遊びも博打もしない。
なぜわざわざ経歴を調べさせたんだ？」
その質問には答えず、Aは布包みを開く。
「ああ、その瓶の破片は、全部は集められなかった」
「これで十分です」
Aは破片のうち、ひときわ大きいもの手に取り、裏返して壬氏に見せた。
白い、何かざらざらしたものが張り付いている。
「見てください。器の内側、白い粉がついていますよね」
「ああ...まさかこれが毒か？」
Aは爪でその白いものをこそげとり、指の腹に乗せるとそのまま口に運んでぺろりと舐めた。
壬氏が顔を真っ青にする。
「おい！なめて大丈夫なのか！」
「ええ、大丈夫ですよ。これ自体は無害なものです。
それに、壬氏さまも高順さまも普段口にされているものですよ」
Aはそばにおいてあった蝋燭を手に取り、炎を瓶の破片の白い部分に近づける。
炎の色が、黄色に変わる。
壬氏は、それを見たことがあった。
風明が外部と連絡を取るために使っていた、木簡の謎を解いたときの_____
「これ...もしかして、塩か？」
「ええ。乾いて粒が残るほど大量に含まれていたようですね」
Aは頷く。
「塩は人体に必要なものですが、酒と同じく大量摂取すれば毒になります。
これならば死に至ってもおかしくありません」
「いや、ちょっとまて」
壬氏が遮る。
「いくら何でも、そんなに塩が入っていたら気づくだろう」
「いえ、気づかなかったのですよ、浩然さまは」
Aは壬氏の目を見て言う。
「壬氏さまもおっしゃっていたではありませんか、辛党から甘党になったと」
「ああ、言ったが」
「時期的にあることが起きたころじゃないですか」
「...ああ。だが、関係あるか？」
「浩然さまの性格上、十分ありうると思います。
調べていただいたらやはり一致していました。浩然さまの味覚の変化と、ご家族の死の時期」
Aは巻物を卓に広げる。
「浩然さまはわからなくなっていたのです、塩味だけが」
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月27日 22時
