参 ページ23
(さて、次はどうしようか)
Aの掃除場所は、壬氏の外廷における執務室である。
後宮にあったものと同じく、広いが豪奢でなく無駄のない造りの部屋だ。
家主は忙しい身の上らしくあまり執務室には戻らない。Aはおかげで掃除がしやすいのだが、問題があるとすれば。
「あなた、何様のつもりかしら？」
気が付けば、見知らぬ官女たちにからまれていた。官女たちはどれもAと同じかそれよりも大きく、中には頭半分高いものもいた。
Aも厚底を履けばちゃんと舞台映えする背の高さであり、別に背が低いわけではないので、官女たちは一般的に見ても相当背が高いと言えるだろう。異国の血が混ざっているのかもしれない。
(やっぱり、餌がいいと、育ちもいいんだなあ)
思わず背丈とともに胸元にも目をやってしまう。
Aも「発育に良いから」と良い餌を食べ続けさせられたものだ。昔は迷信だと思っていたが、今となっては身体に取り込まれる物の重要性を認めるしかない。
「ねえ、話聞いてるの！」
要約すれば、この官女たちはなぜAが壬氏直属で働いているのか、と怒っているのだ。そんなこと言われても雇われた身の上なので何ともいえない。
もしAが、玉葉妃や梨花妃のような豊満な肉体と、白鈴小姐のような色っぽさを見せていれば誰も文句は言わなかっただろう、言えるはずがない。
だが今のAは、そばかすまみれの鶏がらのような生き物である。そう見える。
唯一見せているのはそれこそ異国の姫のような、色素の薄く透き通った紫色の瞳であるが、他が美しくないのでその目はただ少し気味が悪いだけである。
それが、麗しき宦官殿のそばにいることが目障りで仕方ないわけだ。
(うーん、どうしようか)
話術を仕込まれたとはいえ、Aは口がそこまで達者ではない。
不思議なことに、お嬢様言葉ならすらすらとでてくるのだが、それはそれで今の姿には合わずさぞ気持ちが悪いことだろう。
「まさか私が特別扱いされていると？ そんなことあるわけないでしょう。このような醜女をあのお方がお相手にするはずないではないですか」
Aがうつむきがちにつむぐ言葉に、官女たちがぴくりと頬を痙攣させる。
いけるかな、とAは続ける。
「あなたがたが思う貴人はそんな悪食でしょうか？ 目の前に鮑や猪肉があるというのに、わざわざ鶏の骨を食べたいと思いますか？ まあ、それならなんて特殊趣味なことでしょうがね」
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月27日 22時
