傾国のひとりごと参 (ページ22)

今日:163 hit、昨日:105 hit、合計:54,671 hit

　　　　　弍ページ22

Aの仕事は、後宮下女となんら変わらない。
頼まれた部署の掃除を行い、たまに雑用を頼まれるくらいだ。

本来なら、もっと文官に似た仕事も任されるのが宮廷官女であるが、Aにはその資格はない。
その試験に合格しなかったからだ。

　壬氏も高順も驚いていた。Aは簡単に合格するのだと思っていたのだ。
Aは英才教育育ちのため字も美しければ、詩歌や二胡も完璧だ。
歴史も法律も、客の話にのるためにと、婆に叩き込まれている。

それにしても、とAは思う。婆はあれだけ自分の教育に力をかけていたのに、実際に妓女として働いたのは一月だった。
おそらくあれだけの金子に正常な判断ができなくなっていたのであろうが、今頃地団駄踏んでいるのではなかろうか。

こんなことを自分で考えてしまうあたり、相当な自惚れ屋のようだが、本当のことだから仕方ない。

話を戻すが、試験といっても科挙ほど難しいものではない。
Aであれば、落ちることはないと壬氏も確信していたのだが。

(ごめんなさいねえ、落ちちゃって)

　Aはきゅっきゅっと窓の桟を拭く。仕事は真面目に、Aの行動指針である。

　こういうのもなんだが、Aほど優秀な者は、特に女ではそうそういない。
遺伝だろうか、記憶力も、洞察力、思考力もずば抜けて優れている上に、婆からの英才教育ときた。
そこらの官僚顔負けの実力である。

それなのに合格しなかったのは、眠気に負けて試験中にうたた寝したからだ。
運が悪いと言おうか、試験はAが宮廷に戻ったその日に行われた。
前日はAを見送るとんでもない規模の送迎会。ずっと舞を舞い続けたAの体力は底を尽きていた。

「なぜ落ちる？」

驚愕の表情の壬氏にAは素直に「睡魔に敗れました」と答えた。

負け惜しみにも聞こえるその台詞だが、事情を知る壬氏は申し訳なさそうな、呆れたような複雑な表情で「なるほど」と言った。

(案外汚れてるなあ)

　そりゃあ、あんなに広ければ手の届かないところはあろう、とAは思う。

だが、一方で手抜きなのでは、と思わなくもない。

宮廷の官女たちは、資格を有してこの場所に来ている。後宮の寄せ集めの女官たちとは大違いだ。

家柄と教養があり、それだけの自尊心を持ち合わせている。
下女の真似事をするなど、あってはならぬことだと思っているのだろう。

たとえ埃が溜まっていても掃くこともない。