傾国のひとりごと参 (ページ15)

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　　　陸ページ15

壬氏は考え込んでいるようだった。

「出世払いは？」
「ききませんね、即金で千万は必要かと」
「そもそも、お前はいいのか？」
「何がです」
「俺に買われるのが」
「ええ、後宮勤めも悪くないと先ほど申し上げましたが」

壬氏はうなだれる。

「おまえ、あそこが嫌でやめたんじゃなかったのか？」
「そんなこと、いついいました？」

借金返済のため、続けさせてもらえないかと頼みにいったのに、解雇したのはそちらのほうである。

面倒事は多いものの、玉葉妃の侍女はかなりの好条件だ。
毒見役など希少な職、なろうと思ってなれるわけじゃない。

「気に入らないとすれば、毒実験ができないことくらいで。
でもそれはここの方が厳しいです、薬も作れないくらいで」

体に傷がつく可能性があるものは一切禁止である。

「それは、さすがにやめろ」

壬氏は、立てた膝に顎をのせる。苦笑が浮かんでいる。

「そうだよな、おまえ、そういうやつだよな」
「なんですか」
「言葉が足りないっていわれないか？」
「……よく言われます」

苦笑はだんだんあどけない笑みにかわる。

今度はAがうつむく。そこに、壬氏の手がのびる。

「だからなんで逃げる？」
「規則ですから」

壬氏は伸ばした手を戻そうとしない。

だんだんと視線が集まる。Aは焦りを覚えていた。