伍 ページ14
「でも、相当の銀が必要になりますよ」
「どれくらいだ」
Aは考え込む。
そもそもAのもつ借金は李白に白鈴小姐を紹介した時の未支払い分二百、衣装代、部屋代、お披露目会の費用くらいである。
それなりの額だが、この二週間でだいたいは返済済みだと思われる。
しかし身請け金は身代金として、妓女があと何年、妓楼で稼ぐかという逆算に多少色をつけた金額で、その上、その倍ほど派手に身請けを祝うのに使われる。
Aの場合、茶飲みに少なくとも銀三百程度であろうか。
それに加え看板娘としての役割も考えると、一日稼ぐのは八百といったところか。
年に二百日ほど働くとすると、少なく見積もっても十六万。
婆のことだから十年は働かせようとしていると踏んで百六十万。その倍を身請け祝いに使うとすると三百二十万上乗せで四百八十万。
しかもそれは相当低く見積もった金額であり、何かの際に舞を披露すればもっと儲かる。
婆のことだからもっとふっかけるだろうし。
指折り数えてから、Aは答えた。
「まぁ、千万くらいですかね」
「千ッ...」
壬氏は目を見開いた。
「交渉の仕方でそれ以上にも以下にもなり得ますが」
淡々と答えるA。
「一応、緑青館のやり手との雇用契約としては年季一年ですので。たぶん契約更新し続けて何年も働かせる魂胆だと思いますが」
基本十年のところを、異例の一年にしてもらっている。
交渉は厳しいかと思ったが、意外や意外、婆はすぐに頷いた。
まあ、一年もたったら名が知れ渡って、やめられなくなると考えているのだろう。
厄介な客は多い。
年季が明けて店から出て行った人気妓女に執着していた客が彼女を地の果てまで追いかけまわし、
泣く泣く戻ってきた妓女が元の店でやり手として働かざるを得なくなったという話を聞いたことがある。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月27日 22時
