傾国のひとりごと参 (ページ11)

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　　　弐ページ11

「仕事だよ、いってきな」

看板娘係を始めてから二週間ほどたったある日、やり手婆にせっつかれてAは久しぶりに外に出る。乗せられたのは随分立派な馬車である。

今宵の仕事はとある貴人の宴らしい。

都の北の大きな屋敷に連れられて、ため息をつくA。
面倒だ、そんな気持ちが込められたため息でさえ、憂える美女の色香を醸し出すのだから恐ろしい。

A以外には小姐たちと、他数名。
皆、麗しい衣を着、艶やかな化粧を施している。
自分もそれと揃いの姿と考えると妙な感じがするが、Aのはまだ露出が少ないだけましである。

おやじどのと小姐たちの過保護によるものだ。

長い回廊を通り、らせんの階段をのぼり、広い部屋に通される。

天井から灯篭が下がり、赤い房飾りが揺れている。
赤い毛氈の敷き詰められた床。
いくつかの卓子(テーブル)が壁沿いに並べられ、そこに客が座していた。思ったよりも年若い。

ゆらめく炎に照らされる若人たちをみて、白鈴小姐が舌舐めずりをする。横の女華小姐が脇腹を小突く。

ちなみに小姐と呼んではいるが、Aは立場上、三姫よりも価値が高い。
しかしそのような例はいくつもあるし、なにより小姐たちがあまり気にしていないのでよしとする。

小姐たちは幼いころからAを見てきている、だれもAに勝てるとは思っていないわけである。

さて、今宵の客は宮廷につかえる高官だという。
紹介は李白らしい。

(それにしても、大した金持ちだわ)

妓女を屋敷に呼ぶことは妓楼で宴をするよりも費用がかかる。そのうえ、呼んだのは一晩の酌で一年の銀が消える売れっ子妓女たちだ。
緑青館の三姫こと梅梅、白鈴、女華、そして新参者ではあるがそれを悠に超えるAをまとめて呼びつけるとは。

Aが前に出る。途端に部屋が明るくなったかのような眩しさにクラクラする高官たち。

後ろの妓女たちは言わずもがな霞む。三美姫が霞んだらまずいのではとAは思うが、やり手婆がそうしろと言ったので仕方がない。

Aたち妓女は舞い始めた。Aが舞い、その周りで三姫がAを引き立てるように舞う。三美姫が新参者を引き立てていいのかとAは思うが、いいのだと婆は言う。