８・騙すなら最後まで ページ8
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武道館に2人の姿はなかった。
その代わり、俺の携帯には
Aからのメールが入っていて、
“大家さんが倒れた”
“今、一緒に救急車に乗ってる”
“隣町の病院に入院した”
俺は次の日もLIVEがあるし、
その日は打ち上げとか、明日の修正もあって
じいさんの元に、行けはしなかった。
『和也…ごめん。行けなくて…』
「うん。いいよ。じいさんは？」
『落ち着いた。今やっと息子さん夫婦が来てくれて帰るところなの。』
「こんな時間に？」
時間は夜の11時近かった。
電話での会話
タクシーで家まで帰るように言って、
「明日のチケットあるけどどうする？」って聞いたところで、
Aの背中で誰かが話しかける。
「着替えを取りに行くので一緒に帰ってもいいですか？」って
息子さんのお嫁さんらしい。
Aも「はい、大丈夫です」と
礼儀正しく返していた。
俺との会話に戻るときには
「ごめん。何？」って言うから、
「何でもない」と笑っておいた。
じいさんは軽い心筋梗塞だったらしい。
Aと話していて突然苦しみだしたって、
何でよりによってこのタイミングで
ひっくり返るかな、あのじいさんは。
とか思いつつ、なんか笑ってしまう俺。
じいさんらしいなって。
「ドラマじゃねぇんだからさ、そんな都合よく倒れるか？」
「よっぽどお前の歌が聞きたくなかったんだな。」
「どういう意味だよ。」
じいさんの退院祝いに家尋ねたら
いつも通りピンピンしてた。
退院したのは3日後
色々検査して異常はないっていうから帰ってきたって
じいさんは言うけど、Aのあの心配様……
たくっ、騙すなら最後までうまくやれよ。
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作者名：砂希流
| 作成日時：2018年10月11日 21時
