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それって、どういう。
何か言おうとして、エーミールさんを慎重に観察する。でもエーミールさんの言葉は私の脳をショートさせるのに十分すぎて、私を見つめる目が知らない温かさをもっていて、遅れてじわじわ登ってきた熱に口を噤んだ。
「公私混同するつもりはありません。ただ知っておいて欲しかったんです」
貴女が私の初恋だと。
遠く、車のエンジン音が聞こえる。二人きりのタイムリミットが迫っている。
頭の切り替えができないのは私だけで、モノクルの奥の瞳は穏やかにそちらを見ている。山奥にそぐわない革靴はそちらへ一歩踏み出そうとしている。自分でも無意識に、恋い焦がれたその色に、縋るように手を伸ばした。
「……どうしました？」
「あの、初恋って、それって！…………もう、今は違いますか？」
貴方が私の初恋。それは、私も同じだ。
エーミールさんのそれが今はもう過去のものだったとしても、私のそれは今なお進行中なのだ。
極度の緊張と、春と呼ぶには冷たすぎる風が指先から熱を奪って手が悴む。それでも掴んだ袖を離さないよう、じっとその部分を見つめた。
「もう、遅いでしょうか」
カタクリの花はあっという間に姿を潜めてしまう。ひっそりとした場所で、ひっそりと咲いて、ひっそりと身を隠す。
地にぺたりと這う名も無き草を見つめると、なんだか泣いてしまいそうだった。
「そんなことはありません」
エーミールさんは不敵に笑った。作戦会議の時とも敵を蹴散らす時とも違う爽やかな笑み。
捕まえていた袖がいとも容易く逃げる。そして次の瞬間には、捕まっているのは私だった。見た目以上に筋肉質な腕が肩ごと私を抱きしめる。
視線の先には柔らかい色の葉をつけた枝と、よく澄んだ青空だけが広がっていた。身動ぎした私か、それを追ったエーミールさんか、足元で枯葉が音を立てる。そしてエンジン音がすぐ傍に来るのと同時にふわりと体が浮いた。
「コテージで集合じゃなかったのかよ」
「早かったですね」
「教授は遅かったな」
ゾムさんはエーミールさんの気持ちを知っていたのだろうか。特に驚くこともせず、皮肉の様な言葉を吐く。ゾムさんの物言いにエーミールさんは一つ咳払いをした。
エーミールさんは普段乗らない後部座席に私を下ろして、自身もそのまま後ろに乗り込む。バックミラー越しにそれを見たゾムさんは何も言わずに首を振った。
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