「一年目の不満の日」 ページ10
ーこの先、この人間を育てきれることが出来るのだろうか?ー
そう心配していた自分が馬鹿だった。
同居し始めてから一年が経過。
太宰を起こしに行こうと部屋に入り、
足元のロープの罠に嵌まり見事足が宙吊り状態の現場でそう思った。
「人間、降ろせ」
「面白いからヤだ」
「糞…一年の間に生意気になりおって」
「ふふふ」
九歳となった太宰は前よりも大人らしくなり、
持ち前の賢さまでもが発達し、ここ最近になってからというもの、
悪戯だの罠だのをよく仕掛けるようになった。
「仕方ない、自分で降りるとするか」
頭に血が上りふらふらになりかけているAは、指をぱちんと鳴らした。
刹那、ロープがぷちんと蜘蛛の糸のように切れ、Aは更に用意したクッションに落下した。
「うわぁ……ズルい」
「お前が云うか」
朝は太宰を起こした後朝食。
そのサイクルにすっかり慣れてしまい、太宰はAを母親のように思っていた。
「さあ朝食だ」と扉を開ける。
すると太宰が___
「うわあッ!」
「お、引っ掛かったな」
太宰が部屋の外へ出たとき、下に置いてあったロープが絡まり、それと同時に宙へと吊り上げられたのだ。
勿論仕掛けたのはA。
ぶらーんと頭が下にぶらさがった太宰は悔しそうに顔をしかめる。
「そもそも、何故私に悪戯を仕掛ける?
これを機会に教えろ」
「嫌だ」
「じゃあこのまま少し反省してろ」
「ま、待って!話すからこのままは勘弁して!」
「宜しい」
太宰は慌てたように呼び止めると、Aはそれも作戦のうちのようにニヤリと笑い、太宰を優しく降ろした。
「さあ、なんでこのようなことをするのか云ってみろ」
「…………」
「また吊るすか?」
Aの脅しに太宰は顔を青ざめ、首をブンブンと横に振ったあと、
恥ずかしそうにその理由を話した。
「……嫌だから」
「もう一回云え、聞こえん」
「〜!……だからッ!」
「?」
「人間って呼ばれるの……嫌だから」
ごにょごにょと語尾を曖昧にさせながら、頬を赤らめて太宰はそう云った。
それを見たAは「そんなことか」と笑いながらあっさり云いきり、太宰は「笑わないでよ」と不貞腐れる。
Aは少し考えたあと、
「その気になったら名前で呼んでやる」
そう云って微笑んだあと、何時ものように太宰の頭に手をのせた。
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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして!まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました!これからも頑張ってください、応援させていただきます! (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年11月28日 15時