「君がいなくなった日」 ページ36
「お前は何故人間のままいたいと思ったんだ？」
約束の時間、五時になるまで残り十五分となった。
気がかりなことがあって、最後に一つ訊いてみた。
「忌み嫌われた人間の私を、Aさんは育ててくれたんだ。
最期まで、貴女が愛してくれた人間のままでいたかったからだよ」
太宰はAの目を真っ直ぐ見詰め、微笑しながらそう云った。
Aは胸が締め付けられた。
太宰なりに考えて出した答えを自分が否定したからだ。
「うっ……ぁ……」
「治！？」
太宰が急に咳き込み、体を丸めて苦しみ出した。
日の出まであと十分、もう時間なのだ。
Aは太宰を寝かしつけると、見た目だけ若返った太宰の手を握るのだった。
「済まないねえ」
「何を云って……！」
「一ついいかい？」
「ッ一つなんて云わずとも、好きなだけ云え……」
はははっと太宰は微笑んだ。
そのあと、少しだけ声を震わせて、弱々しい声で伝えた。
「あのとき、私を拾ってくれてありがとう。
それに、十歳の時、社交宴会で私を庇ってくれただろう？
あれ、凄く嬉しかったんだ」
「ッ」
太宰はまた微笑んだ。
最期に大切な人へ感謝を伝えたかったのだ。
弱い笑顔はAの胸をよりいっそう締め付けさせた。
泣くな、泣くな、最期まで笑っていると決めたんだ。
最期まで母親を演じきると決めたんだ。
「Aさん」
「なんだ？」
「もう一つだけお願い……私の名前を呼んでくれる？」
Aの脳裏に浮かんだのは、嘗ての名前、津島修治だった。
「津し……」そう云いかけたときだった。
太宰が「違うんだ」と弱々しい声で否定したのだ。
「貴女のくれた、あの名前で呼んでほしいんだ」
Aは叫んだ。
「治、治！お前の名前は太宰治だ！何度でも云ってやる！
だから……逝かないでくれ……ッ」
「ふふっ、ありがとう」
すると太宰は泣きそうなAの頬を優しく撫で＿＿
「………ッ！」
幸せそうに微笑みながら、眠ったのだった。
Aの頬を撫でていた手は力を失ったように落ち、眠るように息を引き取ったのだった。
朝日が上る、時計が五時を指し示す。
光がAを嗤うように上る。
Aは叫び、吠えるように泣いた。
その声は悲痛で、胸に刺さるほど痛々しかった。
「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁッ！！」
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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (
レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして！まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました！これからも頑張ってください、応援させていただきます！ (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：+アリス+ | 作成日時：2018年11月28日 15時
