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「遠い過去のあの日」 ページ19

写真を取り終え、眠る頃には時計は十一時を回っていた。。
「来年も、その次の年も、この日に写真を撮ろうな」そうAは愉快そうに云っていた。
太宰はすぐに自室へ戻ろうとしたが、Aは今日届いた本の整理をするために書庫にいた。
太宰はなんだか胸がざわついて、気付けばAのいる書庫へと足を運んでいた。






「なんだ人間……おっとこの呼び方じゃいかんな。
治、どうした?眠れないのか?」


「………うん」






太宰はこっくりとうなずくと、そのままAに寄り添い、Aの袖を掴んだ。
人肌が恋しいのだろうか?
いずれにせよ、太宰が自分から寄り添ってくるのは珍しかった。







「じゃあ昔話でもしてやろう。
そうすれば少しは眠たくなる」







Aは『とっておき』を見せる子供のようにニヤリと笑った。
何時もはこんな誘いは断る太宰も、その日は何故か素直に頷いた。
それを見たAは太宰の自室へと向かうと、
まるでお母さんのように太宰を寝台に乗せ布団を掛けた。
何時もなら「また子供扱いして……」とお小言を述べる太宰も、
本日ばかりは素直に横になった。







「却説、何処から話そう……」






Aは持ってきた椅子に腰掛け、遠くを見るように窓を眺めた。
月は紅く、窓から漏れていくように溢れるその淡い光が部屋の一部を照らす。
奇しくも、今日はAの誕生日であった。






「昔々、それは気の遠くなるような長い年月を越えた、ずうっと遠い昔のことだった」







ーーーーーー

ーーー






其処には一人の男がいた。
男は醜かった。
富みにも仲間にも才能にも恵まれず、
ボロボロの服からほっそり伸びた手足は痛々しいほどみすぼらしかった。





「………嗚呼」





男は願った『力が欲しい』と。
だがそれは叶うはずも無かった。
ボロボロの器に水を入れても零れ落ちてしまうように、
無い物ねだりをしても無意味なように、
最初から土台無理なことは判っているからだ。






「辛い、このまま私は朽ちていくのだろうか」






何をやっても失敗ばかり、非力で醜く、後ろ指を指される生活がもう耐えられなかった。
__そんなとき、男は見つけ出した。
どんな力も我が物にすることの出来る、悪魔との契約をする方法を。

「愛を知った日、誓った日」→←「写真を撮った日」



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蒼生。(プロフ) - 3年ほど前にこちらのお話しを拝見し、世界観に引き込まれました。3年間度々見たくなります。何回リピートしたか分かりません(笑)素敵な作品有難うございます。こんな数年も前の作品にコメントしてしまいすみません。心の支えを有難う。 (12月28日 19時) (レス) @page6 id: f9eaaebf52 (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 桜月さん» はじめまして桜月さん。私もこの作品を最後まで読んでくださってとても嬉しいです。これからも頑張ります。 (2019年6月25日 21時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
桜月 - はじめまして!まずは完結おめでとうございます。すごくいいお話でした、めっちゃ感動しました。とても素敵な作品でした、ありがとうございました!これからも頑張ってください、応援させていただきます! (2019年6月25日 17時) (レス) id: 0b13d6cbae (このIDを非表示/違反報告)
+アリス+(プロフ) - 青の兎さん» はじめまして青の兎さん。わたしもこれほど丁寧な感想をいただけてとても嬉しいです。これからも頑張りますので、応援してくれると嬉しいです。 (2019年6月25日 16時) (レス) id: 00e250021f (このIDを非表示/違反報告)
青の兎(プロフ) - こんにちは、初めまして。青の兎と申します。この作品を読み終わってから、これほど心温まるお話はないだろうと思いました。久しぶりに目を腫らすほど泣きました。とても最高です。そして、この作品に出会えた私は幸せ者です。これからも頑張ってください。応援してます (2019年6月25日 15時) (レス) id: c4e6688834 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:+アリス+ | 作成日時:2018年11月28日 15時

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