【RE!】fame ＃六道骸 (ページ5)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:10,053 hit

5 ページ5

「ないけど…」

「僕は知っていますよ。なぜなら、空腹の君の目の前で僕が林檎を食べたからです。こうやって…」

教えてくれなんて頼んでないのに、青年はそう言って林檎を持った私の手首を掴んだ。

そのまま、その林檎に皮の上からかじりつく。

「……」

私は、その光景に目を奪われた。

授業中に見た夢と同じだ。彼から視線を離せない。

溢れ出た果汁は私の手首を伝い、果実は彼に咀嚼され喉の奥へ流れていく。

手が震えて指の力が抜けてしまいそう。

「見すぎです」

私に向かって不敵な笑みを浮かべる青年。

ハッとして、私は掴まれていた手を振り払った。

この人は一体何がしたい。私はどうしてこんな夢を見ているんだ。

自分で自分が分からない。

「A、君は幼い頃の記憶が欠落しているはずです。その記憶の一部には僕もいる。僕は君を守るために、再び君の前に現れました」

「私の夢に？」

「これは夢ではなく幻覚です。僕から君に教えることになるなんて、運命とは残酷ですね」

物悲しそうに微笑んだ青年は、私の頬を指で撫でる。

「力を使い過ぎました。また会いましょう、A…」

彼がそう言った瞬間、あたりの霧が濃くなった。

長くて細い指が頬から離れていく。

「っ、待って、骸…！」

手を伸ばしたその時…目の前が薄暗い場所に変わった。

「あれ…」

私は仰向けになっていて、天井に向かって手を伸ばしている。

ここは…私の部屋。

私は自分のベッドに横たわっていた。

確か、公園にいたはずだが…。

どこまでが現実で、どこからが夢だったのか。あの真っ白い草原と謎の青年が夢であること以外、まったく区別がついてない。

「…ん…？」

部屋の暗さに慣れてきた目は、不思議なものを捉えていた。

枕元にあったのは、私がスーパーで買った林檎。

でも…おかしい。

その林檎には、私がかじった跡と、夢で見た青年がかじった跡が残っていた。