【RE!】fame ＃六道骸 (ページ34)

今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:10,064 hit

34 ページ34

護衛という点に関しては女子であるクロームよりは気兼ねなく身を任せられるけど、彼と会話をするという光景が全くと言って良いほど想像できない。

元気いっぱいで遊び相手としてはまあまあ適している犬、こちらの話には素直に返事をしてくれるクローム…この二人とはまったくタイプが違う男子。

口数が少ない上にボソボソ喋るから、彼の声をまともに聞いたことはほとんどない。

しばらくこのフロアの中を散策していたら、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

そしてクロームの言った通り、現れたのは無口男子の柿本千種。

「こんにちは」

声をかけると、彼は私の顔を確認してから眼鏡のブリッジを上げた。

それからは案の定だけど会話なんてものは無し。お互いに無言の状態が続いた。

まぁ、別に無理に話す必要もない。変に話を振って場をつなげなくてもいから、今の状況は逆にすごく楽な気もする。

何も言ってこないので引き続きあたりを散策していた私は、「A」と千種に呼び掛けられた。

「林檎…食べる？」

「うわっ」

問いかけと同時に千種が林檎を一つ投げた。

慌ててキャッチする。

彼の腕の中にある紙袋、きっとその中にはまだ林檎がいくつも入っているのだろう。

「千種、林檎好きなの？」

「いらないなら貰う」

「食べる食べる」

好きなら好きと素直に答えたらいいのに、不器用な人だ。私が言うことじゃないけど。

私は貰った林檎を袖で磨き、皮の上から歯を立てる。

私の食べ方が気になったのか、眼鏡の奥からの視線を痛いほど感じるけど、無視して林檎をかじった。

しかし、そんな千種も私と同様の食べ方で林檎にかじりついた。

ここには包丁の一つもないのだろうか。

私たちは並んで埃っぽい床に腰を下ろし、壁に背中を預けて黙々と林檎を胃の中へ入れた。

「まだある」

私が食べ終わったのを見計らって、千種が次の林檎を渡してくる。

お礼を言って受け取ったけど、そんなに食べてしまって大丈夫なのかな。犬やクロームの分も残しておいた方が良いのでは。

そう思いつつも貰った林檎はありがたくいただくことにする。

でも、二つ目の林檎を3口ほどかじったところで、私は自分の胃の限界を察した。