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「つーかあれくらい言われ慣れてただろーが。泣くほどかよ」
「せっかくあげたのにムカつくじゃん」
「……あの時はガキだったから仕方ねえだろ」
沖田は地面に落ちたままのわたしのスクバを拾って押し付けてきた。たったそれだけなのに、急に一瞬寂しくなった。いつもなら絶対そんなことしない、わたしのスクバが落ちてたらきっと踏んづけてくるようなサイテーなクソガキなのに。
「安心して、いまもぜんぜん変わってないよ」
「は?お前もぜんぜん変わってねえからな。その貧相な胸とかな」
「ウザ。てかアンタに付き合ってる暇ないんだけど」
「は?チョコも無ければ暇もねえってお前何様なんだよ」
「さっきからほんとに何なの?そんなにわたしのチョコが欲しいわけ?」
なにかに抗うようにわたしたちは、おこちゃまのようなくだらない言い争いを続ける。
「まあもう二度とお前と会わねーかもしれないから、貰ってやってもいい」
終止符を打ったのは沖田のほうで。沖田のくせにやたらと大人びた清々しい顔でそう言ってくるから、悲しくなった。
「……は?お前泣いてんのかよ」
「なんか死ぬみたいじゃん」
「は?」
「……まあ別にどうでもいいけど」
「ふざけんな、勝手に殺すんじゃねえよ」
「仕方ないからチョコあげてもいいよって思ったけど、持ってない」
18歳のバレンタインは今日しかないから。今だけ少し大人になってやろう、そう思った。
「そういうとこな。マジありえねーよな。まあいいや、クソ高いチョコ買わせてやらァ」
□
「1200円て……」
「作ったら原価10円くらいで済んだのになァ?」
「まじでそのチョコ作ってくれた子ひとりひとりに土下座しな」
宣言どおりまんまとコンビニで1番高いチョコを買わされた。沖田は1200円のチョコを見せつけるように食べていた。
「あーこれな。オメーにやるよ」
「は?」
「もう要らねーし」
可愛い紙袋たちを横流しされる。甘い香りが鼻腔を擽った。
「何言ってんの」
「原価10円のチョコ100個貰ってもこっちのほうが価値あるしな」
「サイテー」
「お前も来年は作ったほうが安く済んでいんじゃね」
「もう二度とな……」
ふと、ほのかにチョコの味が口に広がった。
「これホワイトデーな。卒業したらしばらく会えねえから」
お裾分けされた1200円の味を味わいながら、遠ざかる背中を見送った。しばらくってなんだよ、そう思いながらこそばゆい唇を拭った。
<完>
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お嬢(プロフ) - スノードロップスさん» はじめまして!とても細かいところまで読んでいただけて感激です……!私も密かに気に入ってる箇所だったりします笑 のろのろですが更新進めたいと思います。コメントありがとうございました! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 2cdd8ff415 (このIDを非表示/違反報告)
スノードロップス(プロフ) - はじめまして。「職業選択の自由って〜」「公共の福祉に反したんだよ」の流れがすごく好きです。憲法に憲法で返すのいいですね。betさんの作品は初めて読んだのですが、秀逸で面白いと思いました!betさんの無理のないペースで更新頑張ってください。 (2021年8月4日 19時) (レス) id: bfd7564905 (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - ☆辻村春樹☆さん» はじめまして!素敵な短編集なんて仰っていただけてとても光栄です。書いてよかったなと思いました。お気遣いのお言葉もありがとうございます。コメントを励みに更新を進めさせていただきます……! (2021年7月28日 20時) (レス) id: 0c52efd26d (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - 初めまして。素敵な短編集を見つけて、一気に読んでしまいました!さらに先程土方さんの話の続きが読めてとても嬉しいです。無理のないよう更新頑張って下さい!betさんの書かれるキャラなら皆好きです! (2021年7月2日 23時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - 光華さん» ありがとうございます!土方さん書くの難しくて心折れまくりなんですが(笑)そう仰っていただいて嬉しいです。更新がんばります! (2021年6月10日 22時) (レス) id: 1bb1611709 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お嬢 | 作成日時:2021年2月17日 19時