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「多串くんのどこが好きだったの」
坂田がしゃべると吐息が首筋に触れるから擽ったい。ふわふわの頭を押してどうにかどかすと、仰向けになった坂田は、微かに頬を緩めて天井を眺めていた。やけに柔らかい眼差しがド派手な天井に注がれている。
「…………ぜんぶ」
「うわ浅」
「ほんとにたまに、すっごい優しく笑ってくれるの」
あのひとのどこが好きだったんだろう。思い返しながら、知らず知らず自分でも過去形を使っていることに気がついて、あんなに重かったはずの己の恋心のペラッペラさに逆に笑えてきた。
「へぇ、俺も優しく笑ってやろうかほれ」
坂田は口角を指で持ち上げてみせる。間抜けな顔芸よりも綺麗な胸板に視線がいってしまった。それに、よっぽどさっきの天井のほうが優しい表情を見せてもらっていたと思う。
「なんか違う……あと地味に天然ぽいとこ」
「あ〜それ俺もよく言われるわ」
「どこが？そんな心まっすぐじゃないでしょ。天然要素ゼロだよ」
「はぁ〜？お前が俺の何知ってんだよ」
「パチンコ好きで甘いもの好きで、万年金欠……くらい？」
どうして１回目のときは、あんな簡単に傷心のわたしを誑かしたのだろう。いくらまるでダメな男だとしても、道徳とか倫理とか、そういう根幹の部分は案外しっかりしていると思うのだ。
「何ダメなとこだけまとめてくれちゃってんの？……俺はお前のこと、たぶん多串くんより知ってるよ。どんな顔してよがんのかとか」
「やっぱサイテー」
わからない。
「こういうのって１回目はさ、衝動とかでいけんだよ。でも２回目は理由があんだよ」
わたしには失恋っていうそれはそれは陳腐で何の免罪にもならない理由があった。でも、コイツには理由なんて見当たらない。１回目も、今回も。
「…………わたしはほら、ヒステリックメンヘラビッチだから。」
「なんかもうほんと、可哀想なんだよな。お前」
「じゃあ、同情？」
坂田は腕を伸ばして、まるで幼子をあやすようにゆっくりと優しく、わたしの頭を撫でた。今度はその死んだ魚のような瞳の中にも同情の色が確かに読み取れた。
「んな高尚なもんでもねーよ。なんつーか、そこまで身を滅ぼす恋をしてる奴を一瞬でも支配してみたかった的なアレ？」
「……趣味悪」
「お前だって多串くん以外のなんかで頭をいっぱいにしてほしかったんだろ？利害の一致じゃん。」
健康的な陽の光が眩しい。ただ、朝が来てももう涙は出なかった。別に坂田に支配されたとかではないけれど、身も心も空っぽにはなった。
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お嬢(プロフ) - スノードロップスさん» はじめまして！とても細かいところまで読んでいただけて感激です……！私も密かに気に入ってる箇所だったりします笑 のろのろですが更新進めたいと思います。コメントありがとうございました！ (2021年8月6日 23時) (
レス) id: 2cdd8ff415 (このIDを非表示/違反報告)
スノードロップス(プロフ) - はじめまして。「職業選択の自由って〜」「公共の福祉に反したんだよ」の流れがすごく好きです。憲法に憲法で返すのいいですね。betさんの作品は初めて読んだのですが、秀逸で面白いと思いました！betさんの無理のないペースで更新頑張ってください。 (2021年8月4日 19時) (レス) id: bfd7564905 (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - ☆辻村春樹☆さん» はじめまして！素敵な短編集なんて仰っていただけてとても光栄です。書いてよかったなと思いました。お気遣いのお言葉もありがとうございます。コメントを励みに更新を進めさせていただきます……！ (2021年7月28日 20時) (レス) id: 0c52efd26d (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - 初めまして。素敵な短編集を見つけて、一気に読んでしまいました！さらに先程土方さんの話の続きが読めてとても嬉しいです。無理のないよう更新頑張って下さい！betさんの書かれるキャラなら皆好きです！ (2021年7月2日 23時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
お嬢(プロフ) - 光華さん» ありがとうございます！土方さん書くの難しくて心折れまくりなんですが(笑)そう仰っていただいて嬉しいです。更新がんばります！ (2021年6月10日 22時) (レス) id: 1bb1611709 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お嬢 | 作成日時：2021年2月17日 19時
