【銀魂】ロマンスを騙る【短編集】

とっておき、意味がわからない。一体何を以てokサインと捉えたのかわからないけど、返事をする前に、緩やかに弧を描いた唇がわたしの唇を塞いだ。そしてそのまま舌の侵入をも許していた。なんだかあったかくて、頭がふわふわする。どういうつもりでこんなことをするのかわからないけど、別に意味なんてどうでもよかった。

「ようやく泣き止んだか」

慰めの言葉なんか少しもかけてくれなかったのに、その指は微妙に濡れた目尻を拭ってくれていて。そういえば、妙に優しいところもあるんだったなと思った。

あとはなし崩し的に“とっておき”を戴いてしまったわけで。


翌朝、知らないベッドの上。シーツを被って、わたしは再び泣いていた。昨日のあれは決して夢なんかじゃない。何年ものの恋心を己のせいで取り返しのつかない形にしてしまったことも、その後のことも。

よりによって、一番最悪な慰められ方を選んでしまったのだ。どうしようもなく愚かで、節操もなくて最低で、とことん惨めな女に成り下がってしまった。こんな女、土方さんが好きになってくれるわけないじゃん。


「……お前、いよいよヒステリックメンヘラビッチ就任じゃん。地雷女一気通貫じゃん。おめでと」
「……うるさい」

隣の男は無駄に綺麗な上半身を隠すことなく、だらしない顔して鼻をほじってるから、否が応でも昨日の夜を思い出してしまう。

「つか多串くんみたいなのって絶対古臭〜く純潔に夢見ちゃってるタイプだよ？どうせ好きなタイプ清純派っしょ。どーすんだよ」
「……」

言われなくたってわかってる。そういうちょっと頭が固くて融通も利かなくて、律儀で厳しくてちょっぴり面倒くさくて、そんなあのひとがふと見せる不器用な優しさとかとか天然なとことか、はにかむような笑顔だったり、何があっても己を曲げない強さだとかが好きだったのに。

……ずっとずっと、好きだったのに。

言われたくないようなことをわざわざヘラヘラ笑いながら言ってくるのだ。こいつはほんとに毛根も根性もねじ曲がってる。もう絶対一緒に酒なんか飲まない、パチンコだって行かないし二度と顔も見たくない。


「もうさ、忘れろよ」

それなのに。くしゃりと頭を撫でてくる、その鬱陶しい大きな手だけがやけに温かくて。払いのけようとしたわたしの震える手が、離してくれない。




＜完＞