甘い珈琲【QuizKnock短編集】 (ページ7)

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「何か言いたいことあるんでしょ」

シャワーも浴び終え、二人でベッドに座った直後、彼女はそう切り出してきた。

「別に大したことない話だし」

「嘘だね、まばたきが増えた。すぐ分かっちゃうんだから」

彼女はそう言ってくすくすと笑った。彼女は僕の事を知り尽くしている。本当に何でもお見通しだった。僕は腹を括った。拳に力を入れる。必ず伝えなければ。この想いを。

「お前が好きなんだ、別れてからも。やり直したいんだ」

突然、にこやかだった顔がハッとなり表情が強張った。流れる沈黙の後、首を横に振った。

「ごめん…私には大切な人がいるから」

僕は彼女に優しくキスをした。聞きたくなかった。彼女の髪の華やかな香りが僕の鼻を擽る。ゆっくり唇を離すと彼女は呟いた。

「…大嫌い」

その言葉とは裏腹に今度は彼女からのキス。心なしか長かった。

「もう会いたくない」

そう言いつつも僕のキスを求めてくる彼女。それに応える僕。そして流れるままに彼女の肩を押し倒す。目と目が合ったその瞬間、彼女は重たい口を動かした。

「拓司からの気持ちはこれからもずっと受け取れない。だから私達は会わないほうが良い。会っても意味が無い。身体の関係なんて早く終わりにしようよ。最後ね。最後。」

「じゃあなんで今まで嫌がらずにこんな関係続けてきたんだよ」

僕の問いに、目を逸らし斜め下を見詰める。顔が紅色に染まっていく。僕の服の袖を握った。

「…私だって拓司の事が好きだもん。大嫌いだなんて思ってない。ごめん」

そう小さく掠れた声をあげた。間を開けずに彼女は続ける。

「でも今の彼氏の事も好きなの。どっちも一度に愛すなんて出来ないのに。最低だよね、私」

言い終わるのと同時に彼女の瞳からは涙がぽとぽと零れた。僕は自然と彼女の頭を撫でていた。嬉しかった。彼女も僕の事がまだ好きだったなんて。

けれど、彼女にはとっくに別の愛する男がいる。だから、僕の存在が彼女の中から消えてしまえば、ハッピーエンドで済む話なのだ。実際、元カレと元カノがこういう卑猥な関係を持つこと自体、馬鹿げていた。でもいずれはどのような形でもこの関係に終わりが訪れることを僕は予想していた。

よし。決心した。ふぅっと一回、深呼吸をする。