待機 ページ10
「ともかく、もう時間がないの。あなた達からすれば時間はいくらでもあるように思えるかもしれないわね。けれど本当のところはそうじゃない。巻き戻しても、戻らないものはあるわ。どんどんと蓄積されていって、いつか手遅れになる。その前に、早くあのメンヘラと垂れ目ちゃんにケリをつけてやらなきゃならないの」
ぐぎぎぃ。喉を鳴らしてそう言う。それから女王蜘蛛はアインさんに何か囁いた。
怯えていたような顔をしてたアインさんは、はっと何かに気づいたような、あるいは、思い出したみたいな顔をした。女王蜘蛛がアインさんを解放すると、アインさんは真っ先にこの部屋から出た。ここから逃げた、というより、ここではないどこかへ駆けつけようとするような、そんな感じで。
「さあ、次はあなた達よ。とは言っても、ぶっちゃけあなた達の仕事は楽よ。指示があるまで、ここで待っていてちょうだい」
女王蜘蛛はそれだけ言うと、床や天井に腕を伸ばして、張り巡らされている糸を引き裂いたり、くっつけたりし始める。そしてあっという間にできあがった即席のハンモックに、優雅に横たわった。
困惑したけれど、聞いても答えてくれそうにない。あたしは諦めて、部屋を観察する事にする。
比較的広い部屋だ。あたし達が普段暮らしてる収容室より、少し広いくらい。そこら中に糸が張り巡らされているだけで、それ以外には何もない。アインさんが使ったはずの、さっきまであったはずの扉もないし。
足元の糸を触ってみる。ふわふわとしていて柔らかい。しかし、少し力を加えると、途端に硬質になる。
「あ、そうだわ。あなた達」
どのくらい経ってからなのか分からない。体感では一時間ぐらいそうしてた気がする。ぼんやりと横たわっていると、ふと思い出したみたいに、女王蜘蛛が声をかけてきた。
「もう繰り返すのはやめてもらえないかしら。覚えているのがあなた達だけだと思わないのね」
「え?それって、どういう……」
カチュアが問うけれど、突然女王蜘蛛はばっと飛び起きて天井を見上げる。あまりに突然の動きに驚いていると、女王蜘蛛は何か怒ったみたいに叫んで、天井に……天井に張り巡らされた糸と糸の隙間に潜り込んで、そしていなくなった。
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