救助 ページ4
「こんにちは、困っているみたいなので助けに来ました」
背後から唐突に声がして、驚いて小さな悲鳴をあげた。誰だ?扉が開く音なんてしなかったのに。魔力の動きもまるでなくて、本当に突然現れたみたいな。あるいは、はじめからそこにずっといたような。ただ、あたし達が気付かなかっただけで。
おっかなびっくり振り向いてみると、そこにいたのは少年のようだった。いや、これは少年じゃない。人形だ。見覚えのある、紫の髪をした人形。そうだ、確か別室であたしを介抱してくれていた気がする。
「二人はここから出られないようだったから……職員さん達の計画がうまくいかないせいで、蜘蛛さんが怒ってるんです。だから僕が来ました。戦う力はありませんが、二人をここから遠ざける事はできます。僕についてきてください、安全なところに避難します」
「え?あの、ちょっと!」
そう声を荒げると、人形は振り向いた。無機質なガラスの瞳がこちらを見て、そして、ああ。と、何か相槌をうつ。
「そちらの人、蜘蛛さんに気に入られたんですね。今起こしますから」
言うなり、アインさんの傍に立つ。そこでふと気付いた。アインさん、何か憑いてる?奇妙なくらいに存在感のない違和感だったから、気付かなかったのだろうか。
あの人形のように、いつの間にかそこにあった。いや、もしかするとずっと前からあったのか。その魔力は存在をさっきまで見つけられなかったのに、そこにあると理解すると途端におぞましさを感じた。なぜ気付かなかったのか分からないほどだ。この妙な感覚は覚えがある。粘着質なこのどろりとした空気が、女王蜘蛛とそっくりだ。
人形の指がアインさんの額を軽くつつく。するとその魔力はさらりと溶けて消えた。
「……う、ん?あれ、ここどこ?」
途端に何事もなかったように、アインさんは目を開けた。ちょっとうとうとしてしまった時みたいな、軽い反応だ。
自分が寝ていたと気付いてないのだろうか。
「それじゃあ移動しましょう」
人形はアインさんにそれ以上構う事なく、寝室を出る。まだねぼけまなこのアインさんの手を引いて、あたし達もそれについていく。
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