恐怖シンドローム３ (ページ25)

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第百九話　クランクハイトページ25

薄い色ガラスが砕け、フレームが鮮血と共にはじけ飛ぶ。

「ぐあ、ふっ……があああァ！！！」

だらだらと液体を流し続ける右目を押さえ、コートのポケットから小瓶を取り出した。
痛み続けるこの目を癒すべく、口で瓶のコルク栓を開けようとしたところ、オレの周囲に一陣の風が舞った。重量物が落ち、ガラスの割れる音が背後で響く。

「……嘘、だろ……」

手に持っていたはずの瓶の感触は、両腕の感覚ごと消え去っていた。
生温かい血だまりの中に倒れたオレの霞む視界に、ナイフを両手に持ったメレディスが――メレディスがこんなところにいるはずはないのに。メレディスはもういないはずなのに、おかしいな。
何度か瞬きをしてみる。総帥殿が立っている。なぁんだ、あなたでしたか。

「シエラ、様……？……違う……メレディス……？」

世界の全てに靄がかかっているかのように、あらゆる感覚が朧げになっていく。そんな中、メレディスのあの美しい声がした。

「シエラとメレディスは、俺の両親だ。でも、俺は二人のどっちでもない」

「冗談はやめてくださいよ……だって、二人とも男なのに、子供ができるはずないじゃないですか……そうでしょう、メレディス様……いや、シエラ様……？」

ゆっくりと、麗しいお姿の彼が倒れたオレに近づいてくる。

「フォボス症候群は『何でもあり』だ。お前なら、よく知ってるんじゃないのか？」

「……あァ、そうだったな……そうか……道理で、オレがお前を殴れなかったわけだ……」

左目から、はらりと液体が零れ落ちた。

「……オレの『愛した』方たちのご子息殿の頼みならば、なんでも聞きましょう。貴方がオレの死を望むなら……オレが死ねば、あの方たちが幸せになれるというのなら……オレを殺してください……総帥殿、命を果たせず死ぬことをお許しください」

「……ほかに言い残すことは無いか？」

ない、と言おうとしてあることを思い出した。

「……総帥殿……シエラ様に会ったら、伝えてください。アルティス拠点6階の給湯室にチョコプリンがあるので食べてください、と……ちょうど、二個ありますから」

オレの胸元に、何か尖ったものが当てられた。