恐怖シンドローム３ (ページ22)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:3,331 hit

第百七話　クランクハイトページ22

「はぁッ……はァッ……ちょこまかと目障りな！」

所詮はガキだと嘗めていたが、どういう訳か奴の連撃に耐えるだけで精一杯といった状況に追い込まれていた。やはりこれは、アルティスの連中が無能なせいでデスクワークばかりやっていた結果、体が鈍ってしまったということなのだろう。
軽やかな身のこなしと、その体躯には似つかわしくないような威力の一撃。

「苦しいなら、早く殺されたほうが世界の為になる」

「ハッ、世界の為だァ？知ったことか！オレの為に世界が壊れてくれりゃいいだけだ！」

オレが言ってやると少年の目つきが変わり、ここで片を付けてやると言わんばかりに勢いに任せてこっちに突っ込んでくる。向かってくるなら返り討ちにするまでだ。オレは少年の眼を睨みつけ、ナイフを突き出した。
その切っ先は少年の白い肌を切り裂くはずだった。
そいつがこちらに向けてきた剣先をかわし、少年に傷をつけることが可能だった。

だが、オレの体は少年に仇為すことを拒絶した。
オレにはあの琥珀色の瞳を、ブロンドの髪を、潔白な肌を、麗しい目つきを、あの少年の全てを、害することなどできなかった。オレのこころの深い深い遠い記憶のなかの彼。あるいはオレが唯一人、この方の為に生きたいと願ったひと。

「何故だ、何故お前が……！」

返事の代わりに与えられた、腹部への重鈍な痛み。それを感知した時、既にオレの体は後方へと飛ばされ、地表を跳ねていた。口に鉄のような味が広がり、咳き込むと赤い雫が飛んでいく。
懐から小瓶を取り出し毒々しい紅の液体を呷ると痛みはマシになったが、その直後に鮮烈な痛みが再びオレを襲う。

「……貴、様ッ！」

少年の刃がオレの胸を刺し貫いていた。一気に一瓶飲んだ効果からか、剣を抜かれた傷口はすぐさま塞がっていく。

「……しぶといヤツ」

「ふん、それはこっちのセリフだ」

……今、ゼロの薬剤は二本手元にある。全部飲んでしまえば、ゼロの身体能力を得られるだろうか。
ヒトとしての柵から解放され、少年を殺すことを阻むこの感情も消え失せるだろうか。
……駄目だ。オレが人外に成り果てたなら、誰が総帥殿を護るというのだ？そんな危険な賭けには出られない。オレは両手にナイフを握り、少年の方に向き直る。

「まだ立ち上がるのか？」

「オレにも、死ねない事情があるもんでね」

「俺だってそうだよ」

「なら、こうするしかねェよなァ？」

オレと少年は、獣のような叫び声を上げトドメを刺そうと走り出す。
少年のあの瞳がオレを見つめ、そしてーー