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私は洞尾白蜜、中学生二年生。
覚えている最後の記憶は……学校の帰り道。文化祭の飾りとかを作ってたらいつの間にか暗くなってて、急いで自転車を漕いでたのを覚えている。街灯がぽつぽつあって、車も全然通ってなかった帰り道。夏だというのに、やけに静かで、そこに私の自転車の車輪の音だけが響いていた。
自分の身体を見下ろす。学校の制服の、セーラー服。夏服だから半袖。ポケットに手を突っ込むと、ハンカチがあった。肩掛けの大きな鞄には、教科書と筆記用具、あとタオルと水筒、体操服、財布、隠れて持ってきていたお菓子。
自分がどうしてここにいるのか分からない。分からないけれど、多分目の前の男から離れた方が良いような気がする。神様を名乗る時点で怪しいし。
周囲を見渡すと、扉が一つあった。開ける。その瞬間、爽やかな匂いの風がふわりと頬を撫でた。
森の中……らしかった。緑の葉をつけた木々が、そよそよと風に揺られている。木の枝にとまっていた小鳥はびっくりするほど鮮やかな色をしていた。小鳥は突然現れた私に驚いたのか、ぱさぱさと飛んでいってしまった。木陰には小さな花が群れて咲いている。澄み切った青い空には綿飴のような白い雲がふわふわと浮かんでいる。
例えるなら、御伽噺の中の世界みたいな……夢の中のような、幻想的な森だった。思わず息を呑んで、数歩だけ前に出る。草木や花、土の匂いがする。
ふと振り返る。
「あれ?」
何もなかった。私のいた部屋も、私の開けたはずの扉も。初めから何もなかったように、そこにはただ木々があって、そよそよと揺れていた。
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