フォビアコンプレックス3 (ページ28)

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第百八話　no side ページ28

どうして。

どうしてこうなった。

どうしてこうなった。

どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。

さて、ここに『どうしてこうなったのか』という問いを自らの中で延々と繰り返している憐れな人間が居る。この者の為に私が一つ、ある男の終わりを描いた物語についての解説をして進ぜようではないか。なに、男の物語が終わる理由など至極単純なことだ。この男は選択を誤っただけに過ぎない。誤っただけにしては代償が大き過ぎではないかと？…おかしなことを言う。｢死んでいない｣上に｢愛しい人の老い｣を止められた。そして彼女を殺すことで｢永遠に自分のものに出来た｣ではないか。寧ろこれ以上無い程に素晴らしい結果を得ているのではないかと思うが。

________男は一人、呆然と｢女｣を見つめていた。己が選択し、己が招いた結末を、答えを必死に理解せんとしている。しかし思考は堂々巡りを繰り返すばかりで明確な回答は未だに得られていない。それ程までに、男にとってその｢女｣の存在は大きなものだったのだ。その｢女｣を愛するがあまり、｢女｣と同じ女によって引導を渡されることになるとは何と痛快極まりない皮肉、何と笑える悲劇(トラジェディ)であろうか。

男があれほど触れたいと願った、柔らかく滑らかでハリのあったあの若々しい肌は、今はまるでゴムのように固く、木の皮のようにガサついており水分という水分が完全に失われている。仰天し大きく見開かれた瞼のなかには、男があれほど見つめて欲しいと焦がれたあの愛らしい、夜空のような紫がかった紺色の眼球は無く、身体から数センチ離れた場所に乾燥したクラゲのようになった、眼球と思われる何かが転がっていた。

男があれほど口付けたいと願った、桜貝で作られたかのようなあの丸い爪は、今は抜け落ちているか中央からぱっくりとヒビ割れており、中の肉が見え隠れしている。男が顔を埋めたいと願ったあのまろい双丘は今は無く、薄い皮で覆われた肋骨の上には萎んだ朝顔のように皮膚の塊だけがあった。

正しくミイラのような姿に変貌した想い人を、男…ゼーゲンは呆然と見詰めていた。