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和哉は軽く伸びをして眠気を覚ました。彼は与えられたタスクをどうにかこなし、休憩をとる事にした。備え付けのソファに気だるげに横たわり、クッションに頭を預け仮眠をとろうとしたが、社員証が通知を鳴らす。
面倒臭げに和哉は起き上がり、そして舌打ちをした。例のチーフから新たな命令が下されたのだ。和哉は苛立ち床を蹴る。しかしそうしていても問題が解決するわけではない。彼はさっさと仕事を終わらせるために部屋を出る。
廊下では何人かの職員が和哉と同じ場所に歩いていた。彼らもレイチェルに呼ばれたらしい。
「鐵、貴様も呼ばれたのか」
「はい。この召集は一部の中級職員だけみたいですね。……何だか嫌な予感がします」
保険部署中級職員V004、鐵野々華はその淡麗な顔を不安感からか軽く歪ませた。和哉はそれをはっと鼻で笑う。この会社で良い予感がした事はあったか?そう心で囁いた。
召集場所は第一会議室だった。会議用の大きな机の上座には例のごとくあの男がいた。魚のようにぎょろりとした、見ているだけで生臭い香りがしそうな不快感のある目。和哉はなるべくそちらを見ないようにして席に座る。
「キミ達に命令がある」
レイチェルはそう言った。それとほぼ同時に、和哉の目の前に注射器が出現する。いや、和哉の前だけではない。この場にいる職員達全員の目の前に、注射器が出現した。和哉はその現象を少しいぶかしんだが、それ以上に目の前に置かれている注射器が気になった。
中にははらわた色をした奇妙な液体が注入されている。奇妙な事に、和哉を前にしてもその液体は凍りついていなかった。和哉の体温は異常に低く、近くの液体を凍りつかせるほどなのだが。
「これを注射しろ、と?」
「察しが良くて助かるよ。さっさとやって。安心して、大丈夫だから」
和哉の問いに彼はそう答えた。和哉はこの液体が何なのか質問しようとしたが、やめた。どうせ中身が何であっても注射しなければならないのだ。なら知らない方が良いだろう。
彼は手首の静脈にその液体を打ち込む。
唐突な眠気が襲う。それも、抗いがたいほどの強い眠気だ。レイチェルのその言葉を聞く前に、彼はその意識を手放した。
「諸君、我々は失敗した。けれどこれで終わってはいないんだ。悪いけど、もう少し付き合ってもらうよ」
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