盗み聞き ページ48
「カチュア、この人を見ててもらえない？ちょっと喉が渇いちゃった」
どのくらい経ったのか分からないけど、そんなにたくさんは経過してないと思う。多分、三十分くらいかしら。
あたしは少し喉が渇いてきて、カチュアにそう言った。カチュアはうん、と頷く。
水道水を飲もうと寝室のドアを開けようとすると、誰かがいるのに気付く。何人かの人達が、何か話しているらしかった。その中には、先ほどの女性職員さんの声もあった。
驚いたけど、なんとなく好奇心が湧いてきた。カチュアちゃんに向けて合図をする。人差し指を唇に当てて、静かにしてて、と。不思議そうにしたけど、カチュアちゃんは頷いた。ドアに耳を寄せて、そして魔力を耳に集中させる。それでも、かなり聞き取りにくい。
「それじゃ、そうしましょ。大丈夫よ、仮に失敗しても例の……があれば問題ないわ」
「ああ。だがあまり楽観視しすぎるなよベルツ。A-622-Rは未知の能力を持っている。……の……処理が出来なくなる可能性も考慮して……」
「はい。それに、彼女達のメンタルケアも必要ですし……ああ、やる事が多いなぁ」
「これで五回目だ。次で終わらせられるよう、手筈を整えてくれ。これ以上繰り返すわけにはいかないだろう？」
「本当に厄介よね。どうしてクランちゃんが……込まれちゃったのかしら？」
「変異する直前に行った健康調査では、F538の精神状態が著しく良好でした！F538の変異と何らかの関係があるかと思われますね……彼の異常について対応が遅れた結果がこれです。申し訳ありません」
「謝らないでいろはちゃん。多分、気付いたところでどうしようもなかったから」
「そうだ。仮にシャーデンフロイデを処分したとしてもA-622-Rは暴走をしていただろうからな」
「ありがとうございます……あれ？あの、私のクッキー知りませんか？棚に置いてた筈なのに……」
「んもうイグちゃんったら、つまみ食いはだめじゃないの」
「私ではない。って、置いていた鉢植えがないな。……もしかして、部屋を間違えたんじゃないか？！」
「え？！うっそぉ、誰かに聞かれてないわよね？！」
これはこの部屋中を確認する流れか。あたしはベッドを指差す。寝た振りをしよう、という訳だ。カチュアちゃんも頷いて、同じベッドに横たわる。
「意識の有無は瞳孔で確認できるって。魔法で見せかけをしましょ」
「分かったわ」
あたしはカチュアに、カチュアはあたしに。互いに魔法をかけ終えたその時、寝室の扉が開いた。
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