ファン ページ38
「ねえ、ねえったら!」
ぼんやりしてた。大きな声ではっとする。隣にいたカチュアもそうだったみたいで、驚いて目を真ん丸にしてた。
振り向くと、見知らぬ職員さんがいた。つやつやとした灰色の髪の毛をまとめた、女の人。バッチの色は赤、制圧部署の人らしい。いたずらっ子みたいな、幼げな顔立ちをした彼女は、すごく嬉しそうな顔をしていた。
彼女は何人かの職員さんに、何かを見せびらかしているらしかった。職員さんの賛辞や羨望から察するに、よほど価値のあるものなのだろうか?
気になりはしたが、わざわざ引き返して覗き見る事はできなかった。かといって、そのまま立ち去れるほど興味をひかれなかったわけではない。あたし達は足を止めて、ちょっとだけ声を盗み聞きする事にした。
「……のプロマイドだよ!良いでしょ?」
「どこから手に入れたんだよぉそれ。新しく刷ったの俺にくれない?五万出す」
「五万とか馬鹿なの?私は十万出すわ」
どうやら、その品は誰かのプロマイドらしい。しかし、誰のプロマイドなんだろうか?有名なアイドルとか?
「しかも〜……じゃん!このボイスレコーダーを見て!」
「は?……マジ?え、すげぇじゃん!これ中身、女神様の?」
「そうだよ!良いでしょ〜。欲しい?」
「当たり前よ!百万……いえ、言い値で買うわ」
ボイスレコーダー、という事は……有名な歌手?女神様、というのはあだ名なのだろう。だとしたら、女性か?
しかしそれ以上に気になったのは、職員さん達の態度だ。少し、興奮しすぎてない?好きなものを目の当たりにしているからなのかもしれないけど……もしかすると、芸能人のファンだとかはあんなのが普通なだけなのかもしれないけど、あたしからするとあれは異常だった。
気味の悪くなったあたしはカチュアの手を引いて、そこを離れた。
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