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「ダーリン、何があったのか教えてくれないかしら?」
ジョンは答えない。答えたくない、のだろうか。ジェベリアはジョンの傍に近寄り、目線を合わせようとする。しかしジョンは頑なにこちらを見ようとしない。
「……まん」
「?」
だがやがて根負けしたのか、彼は掠れた小さな声で言う。それはもはや声というよりは、吐息のようですらあった。はじめは聞き取れず、ジェベリアは更に近付いて、耳を澄ませる。
「欲求不満」
ようやく聞こえたその単語に、ジェベリアは納得した。ジェベリアは思い出していたのだ。自身に足りないものを補おうと、ただ殺戮をしていたあの時。あれは飢餓だった。満たされたくて仕方なかったのだ。はじめて沸いた生物的な欲求に逆らえず、手当たり次第に喰らい、血を啜っていた自身を思い出した。
今、彼も同じ状態にあるのだろう。ジェベリアと違うのは、その高い自制心からか、彼はまだ欲求を満たせていないという点か。ジェベリアはジョンを軽く揺すった。
「手伝うわ。死なない程度になら……いいえ、顔に傷が残らない程度になら、私に何をしても構わないわよダーリン」
「オレの欲求、キミが思っているのとは少し違うと思うんだけど……」
ジョンは言うが、ジェベリアは構いもせずにまた揺すった。やめて、とジョンが囁いて、それでやめる。
「食欲とかじゃない。睡眠欲でもない……まあ、そういう欲求だよ」
「ん?……ああ、なるほどね。良いわよ別に。むしろそっちの方が都合が良いわね。じゃあ、これで良い?」
ジェベリアは頷いた。自身の腕や脚の一本くらいは喰わせるつもりだったのだ。それが必要ないのなら、それにこした事はなかった。彼女にとって手足はそれほど必要なものではなかったが、それでももがれるよりはもがれない方が良かった。
服をほどいて、ジェベリアはジョンにもたれる。ジョンはぴくりと身動ぎし、そしてため息をつきながら起き上がる。
「いちおう言っておくけど、煽ったのはキミだからね」
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夜(プロフ) - 素晴らしいお話、ありがとうございます。楽しみに待っています (2021年7月22日 13時) (レス) id: 1f55a4bce5 (このIDを非表示/違反報告)
つーちゃん - ください (2021年7月4日 14時) (レス) id: 84f4461b32 (このIDを非表示/違反報告)
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