人工物、あるいは人ならざる者 (ページ39)

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外伝25 ページ39

そろそろ洗濯物を干さなければならない。ジェベリアは時計を見る。洗濯物を干すのはジョンの担当なのだが、ジョンは昨日出張から帰ってきたばかりだ。疲れているだろうし、しばらく家事の全般は自分が行うとジェベリアは言っていた。

　ジェベリアは脱衣所の扉を開ける。洗濯機が置いてあるのは脱衣所なのだ。

「あ」

「……あ、ごめんなさいダーリン」

　上裸のジョンがいた。ちょうどシャワーを浴び終えたところなのだろうか、全身が濡れている。脱衣所に鍵をかけ忘れていたようだ。こちらに背を向けている彼は、少し驚いたような顔をしていた。

　咄嗟に扉を閉めて、ジェベリアは扉の向こうへ謝罪する。返事を待たないまま、踵を返して自室へと戻った。

　ジェベリアは自室の椅子に座って、唸る。その理由はジョンの身体にあった。

　ジョンの背中にはいくつもの裂傷があった。小さくも切れ味の良いメスか何かで切り裂かれたかのような傷痕だった。だが、ジェベリアはその傷痕がメスなどの刃物でできたものではない事を知っていた。

　それは、ジェベリアの爪でできた引っ掻き傷だ。傷の具合からして、おそらく昨日の夜にできたものだろう。

　ジェベリアは戸棚の中からいくつかの薬を取り出す。それらはほとんど軟膏だ。傷を治すための軟膏である。ジェベリアは彼の傷に責任を感じているようだ。

　しばらく考えた彼女は軟膏の一つを手に取り、部屋を出る。時間的にもジョンは既に着替え終えているだろう。ジョンの部屋へ向かう。

「ダーリン、ちょっと良い？」

「……ん？ああ、天使ちゃん。どうしたのかい？」

　扉を開けて、中を覗き見る。ジョンはしっとりと濡れているその輝くような金髪を櫛で梳かしていた。背中の傷痕は服によって見えない。

「背中、怪我してるでしょ？私が手当てしてあげるから感謝してよね」

　手元の軟膏を見せながら言う。ああ、とジョンは相槌を打ち、じゃあお願いしようかなと続け、着ていたシャツを脱いだ。背中の傷痕があらわになる。

　痛かったら言いなさいよと言って、ジェベリアは軟膏を塗っていく。

「悪かったわね」

「何がかい？」

「背中。こんなにして」

「別に構わないよ、すぐに治るしね」

　ジョンは軽い口調で答える。ジェベリアは少し気が楽になった。