外伝2 ページ16
談話室で顔見知りや同僚と語らっていたが、彼らは仕事に戻り、談話室にはジェベリア一人になった。
仕事は既に終わらせた。かといって帰るにはまだ早い。帰るのならジョンと共に。ジェベリアは車を持ってないのだ。夫と結婚する前は会社に泊まり込みで、家すら持っていなかったのである。社員寮にも部屋は用意されず、業務外時間は廊下で寝泊まりしていた。この待遇が異常であると知ったのは家を持ってからである。
それに何よりジェベリアは自身の隣に彼がいないと不満を覚えるようになっていた。日々強くなる夫への依存心をジェベリアはまだ自覚してはいなかったが。
談話室に置かれている雑誌を見る。その全てが、彼女が勤めるこの会社の出版したものだ。政治経済、宗教、機械工学……様々なジャンルの本がある。興味もないそれらを暇潰しにぱらぱらとめくっては、本棚に戻す。
だがとあるページを見て、彼女はふぅんと小さく言う。
それは恋愛小説であった。この会社には似つかわしくない、ひどくロマンチックなジャンルである。内容はいたくありふれている。年若い男女が親の反対を押し切り、駆け落ちするのである。
男女はこんな風にときめくものなのかしらね、とジェベリアは疑問に思った。心臓の鼓動が激しくなんてならないわ。むしろ、彼のそばにいるとひどく落ち着く。ああ、けれど、夜の時はそうかもね。談話室のパイプ椅子に座り、その本を読む。
ありふれたもの。しかし興味を惹かれた。彼に今度勧めてみようかしら。ジェベリアは小説を棚に戻す。そろそろ帰る時間だ。
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夜(プロフ) - 素晴らしいお話、ありがとうございます。楽しみに待っています (2021年7月22日 13時) (レス) id: 1f55a4bce5 (このIDを非表示/違反報告)
つーちゃん - ください (2021年7月4日 14時) (レス) id: 84f4461b32 (このIDを非表示/違反報告)
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