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その夜。
割り当てられた部屋で、私は鋸の刃を研いでいた。部屋の中を探してみると、砥石があったのだ。傭兵のサベダーのように、刃物を持ち込んでいる人間のためなのかもしれない。もっとも、私は彼がナイフを扱う場面を一度も見た事はないのだが。
長年使い込んできた愛用の鋸。持ち手は手汗が染み込み変色しているが、手にしっくりくる。
刃が鈍く輝くようになった頃、私はようやく一呼吸置いて、休憩する事にした。時計を見ればもう十一時半。あと三十分で、明日になる。
日記を書かなかったけど、どうなるのかしら。ふと不安になる。追放されれば、家に帰られるの？考えなしにこうしてしまって、本当に良かったの？
頭を振る。
分からない。でも、少なくともここで過ごすよりはましじゃないのかしら。それに、書かなかったものは書かなかったのよ。今更言っても、もう遅すぎる。
緊張するわ。ちょっと水でも取りに行こうかしら？小腹も空いたし、食堂に行けば、何か食べられるかも。少し冷えているだろうけど、贅沢は言わないわ。少しでいいから、夕食が余っていればいいと思いながら、私はドアの取っ手に手をかける。
……？
おかしいわね、開かない。建て付けが悪いのだろうかと思いながら、がちゃがちゃと取っ手をひねる。開かない。おかしい。
閉じ込められた？
と、ふと音が聞こえる。いつから鳴っていたのだろう。非常に小さかったから、聞こえなかったのかも。
しゅー……と、何か、空気が吹き込まれるような音がする。それとほぼ同時に、強烈な眠気に襲われる。咄嗟に舌を強く噛み、服で口と鼻を塞いだ。
おそらくは催眠ガスの類だろう。今日、夕食でエリスが言っていた事を思い出す。
途中で寝ちまってよ。
はは、あれはエリスが我慢できなかったわけじゃなかったのかもね。食堂にも、ここに流されているのと同じガスが放出されたのかもしれない。
窓を開けて、換気しなければ。重い脚を引きずるようにして、窓際まで歩く。まぶたがどんどん下がってくる。なぜかは分からないけど、眠ってはいけないような気がした。眠ってしまったら、もう二度と起きられないような錯覚すらあった。
あと少し、あと少し。
指先が窓ガラスに触れる。力を振り絞り、窓を開けようとした。
でも、窓は開かなかった。
私はほんの少し落胆して、目の前が暗くよどんでいった。
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ミクミキ(プロフ) - YUKARI♪さん» ありがとうございます！ (2019年11月17日 18時) (
レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
YUKARI♪ - イベントからきました！とても面白かったです！野菜さんと同じようにミクミキさんの描写好きになりました(^^) (2019年11月17日 15時) (レス) id: 100fae83aa (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 野菜さん» ありがとうございます！励みになります！ (2019年7月20日 22時) (レス) id: 86a9e09b47 (このIDを非表示/違反報告)
野菜(プロフ) - ミクミキさんが書く言い回しや描写がとても好きです！待っていた甲斐がありました！これからも更新頑張ってください！ (2019年7月20日 21時) (レス) id: d6aefcc85a (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 猫夜桜((シラキさん» ありがとうございます！ (2019年3月21日 8時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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